top of page
EA442A71-E906-467B-87F5-FEABE1A4D422.png

Villains Parade

Composer : Ask.A


「はぁ……チッ、ここもかよ」

息を整えながら、グリューネンは東奔西走していた。
己の仲間が根こそぎ捕縛されている、と聞き、居てもたってもいられず、アジトへ戻ってきたのだが、
彼を迎えたのはもぬけの殻となり、所々争った形跡のある廃墟であった。
ここで仲間と酒を飲み、街をわが物顔で闊歩できたはずの、彼らなりの幸せは踏みつぶされたと言ってもいい。

「まぁた『俺』の邪魔しようってか?お前は! あぁ!?」

怒りの矛先が向いたゴミ箱は蹴り飛ばされ、椅子は本来の役割を失ってしまった。
どうやらここに向かう途中でグリューネンはまた『俺』に戻っていた。

世間的に「悪」とされる彼ら半グレの集団であっても、仲間意識はある。
ここは世間から指弾されるはみ出し者の集まり。
クソみたいな環境で生きるために盗みをして投獄された経験を持つものや、
自らの尊厳を守るために暴力を働いてしょっぴかれた少年もいた。
当然そんな美談でなく、単純に「悪」というものに惹かれた若者の方が多かったが、
その若者だって、仲間の痛みがわからないほど鈍感でも粗野でもない。

結果として、彼らはこんなクソったれな社会を、世界をぶっ壊してやろう、と蜂起したのである。

グリューネンはその一味のリーダーとして、時に暴れ、時に策を巡らせ、
勢力を少しずつ伸ばしていた。もう少しでこの辺り一画を自分たちのシマにできる、そう思っていた矢先だった。

「どこからも情報と素性の探れない」謎の人間が、これまたよくわからないモノで、
自分たちの仲間を軍部に突き出して回っている、との噂が出たのである。
確かおとぎ話のような魔法陣がどうのという話もあったがこんな世の中でそんなものがあると思えないし、
出所も自分たちの信頼のおけるものでもなかったため、頭がイカれた奴が作った与太話だろう。

そうは思っていても、対策は打たないといけない。
だが対策を打とうにも、相手は得体の知れない存在。いわば幽霊のようなものだ。
どこの誰なのかすらわからない。この国出身ではないことだけは確かだろう。

そんな現状に甘んじていた時に、事態は悪い方へ―世間的には良いほうへ―動いた。
唐突にグリューネン達一派のアジトに軍部関係者が押し寄せたり、道すがらシメられたりと、
軍部からの締め付けが過激化した。
このままでは、と焦ったグリューネンは、応援の取り付けと新しい情報の収集を行うために、
自分たち同様摘発が過激化していると噂される武器商会「リューリュー」に出向いたが、
その間隙を縫い、またも憎き軍部は安寧の地を奪っていった。

グリューネンが苛立っている背後で、ガン、と小気味良い音が鳴った。

「よっと。ガラにもなくずいぶん焦っちゃって。
 鼠みたいにチョロチョロ動いたかと思ったら今度は暴れまわって。つくづくお前がガキかと思っちまうよ」

壊れてしまったドアを蹴り開けながら、ついてきていたアルベリッヒはニタニタと笑った。

「情報すらロクに取れねぇクセしてアタマなんて張ってっからそうなンだよ。
 まあ、仲間を思う気持ちってやつはわからんでもないけどさ、取引相手を置いてどっか行くってのは、
 ちょっとどうかと思うぜ? ンな阿呆はお前が初めてだよ」

変わらずニタニタ笑いながら、アルベリッヒはかつての面影があったソファにどっかりと腰を落とした。
そこはグリューネンの指定席のような場所であったが、この取引ではグリューネンは弱い立場にある。
グリューネンは目の前の黒髪の女をぶん殴りたい衝動を抑えながら、真向いのソファに腰掛ける。

「……で、例の情報は?」

「まあそう焦んなって。お前があたし以上に強かったとしてもやたらめったら軍部に突っ込んだらオワリだぜ?
 カシラが取っ捕まったらあとは烏合の衆だって高ァ括られて、お前が娑婆に出てくる頃には一掃されてるだろうよ。
 分かったらちったぁ冷静になれ。ここでこっちがブッコみすることほど愚かなこともねぇよ」

アルベリッヒはじっとグリューネンの『瞳』を見つめる。

「あいつらが今も取っ捕まってるかもしれねぇってのにここでのんびりしてられるか。
 『俺』は―」

「あー、いいや。『お前』じゃなくて、違う方呼んでよ。『お前』怒りすぎ。
 冷静な思考ってもんがないのに取引なんてしようと思うなバカ」

アルベリッヒは鬱陶しそうにグリューネンの左目を指さした。

グリューネンは普段から左目にアイパッチを当てているが、その左目には瞳孔が二つ以上存在している。
先天性特異型分裂症という奇病を患った彼は、瞳孔の分裂、視野の輻輳の他に、意識中に多数の別人格が存在する。
そして体内のアドレナリンの分泌量が一定以上に達すると、意識の分裂による思考の超加速が起こり、
動体視力と反射機能が向上する。その時に登場するのが、『俺』であり、アルベリッヒの言う『お前』だ。
だから、アルベリッヒの指摘は至極真っ当なものである。

―そのことをグリューネンは一切誰にも話していない、という点を除けば。

「……テメェ、どこでそのことを知った」

「情報源も『情報』だ。んな簡単に教えてくれるとでも思ったのか?
 まったく『空凪ぐ流星』ってのは情報の仕入れ方すらわかってないようだなァ、ええ?」

アルベリッヒは大げさに肩をすくめた。

「今『お前』が疑問に思うことの答えが欲しいなら、それなりの報酬ってモンが必要だって言ってんだよ。
 普通その辺のガキですら金払ってパン買ってるだろ? 『お前』の常識がガキ以下で欲しいものを得る手段が、
 盗みや脅しで止まってんなら、この取引自体ご破算だ。あたしは帰る」

「……ああそうかよ」

フッとグリューネンの体の強張りが抜けた。
ゆっくりとアルベリッヒの向かい側のイスに腰掛けたグリューネンは、まるで「別人になった」かのように、
冷徹な目をしていた。

「……わかったよ、なんで俺『たち』の事をお前が掴んでるかはこの際放っておく。本質的には関係のないことだ。
 だが前金の分はしっかり働いてもらう。天下の『リューリュー』の若頭サマがガキ以下ってんじゃ締まらねえからな」

「そりゃそうだろ。少なくともこんなドブみてぇな場所で暮らしてるてめぇよりは社会ってモンを知ってる。
 煽りにしちゃ稚拙であくびがでちまうなぁ」

「俺は思ったことを言っただけだ。お前に面白がってもらうつもりもない」

アルベリッヒとグリューネンはしばらく睨みあう形で互いの様子をうかがっていた。
取引相手かつ、事前の面識があるとはいえ、かたや半グレ集団のリーダー、かたや裏組織の若頭である。
必然的に、自分に有利な条件での妥結のため、何でもしてくるだろう。そんな確信が、互いにあった。

善人が善を法とするように、市民が市井を法にするように、悪党は悪を法とする。
ここにいるのは、ベクトルはわずかに違えどやはり双方共に悪であり、
そこに例えば善人の法や市民の法のような「縄」を持ち込むのは筋違いだ。

しかし、グリューネンも、アルベリッヒも、ただ「将校」を潰すためだけに集中しており、
目の前の蛇を食らいつくそうという、ある種の「悪党らしさ」は鳴りを潜めていた。

睨み合いが続き、ややあって、ため息をつきつつ先手を打ったのはグリューネンだった。

「こっちはお前の呈示する金額の金は払った。後はお前が契約を履行するだけだ」

アルベリッヒの口角が吊り上がった。

「そうそう、やっぱお前の方が話が早いわ。『あいつ』だと取引にすらならねぇ」

からからと笑う彼女をグリューネンは至極冷静な目で見つめていた。
 
「あたしもあの将校サマにはムカついてんだよ。かわいい部下を何の前触れもなく痛めつけて、
 んでてめぇはお咎めなしで英雄気取りでシャバ歩こうなんざあたしは許さない。
 元々てめぇらがなんにもしなくともあたしらは動くつもりだったし、
 そこにひょろっちぃチンピラが何人紛れ込もうがこちとら構いやしない。目的は同じだからな」

今度はグリューネンの口角がゆるりと持ち上がった。

「なんのかんの言って、お前もやっぱり仲間思いだってことが分かって良かったよ。
 猫の仇討ちの話を聞いたときは流石に眉唾だと思ってたがな」

ソファに座った満足気に、持っていた扇子をパチン、と鳴らした。

「わかってねぇなぁ。家族を殺されたらその『代償』は払ってもらわないといけねぇんだよ。
 ちぃーっとばかりやり過ぎたかとは思ってっけど」

「その『代償』が組織一個ってのは少しどころじゃなくやり過ぎだと思うがな」

「失った悲しみってモンはその辺のアホやクソみてぇなチンピラじゃ釣り合わねえんだよ」

「……なるほどな」

アルベリッヒもグリューネンも、ほくそ笑むような表情を変えることはなかったが、
互いに仲間を大事に思っていて、かつそれを害するものは、ブチのめす。
ただそれだけの『正義』が、『悪党』であるはずの二人に共通していた。

―――
――


物が散乱した部屋の中で、二人の悪党は会議を続ける。

「軍部であたしが掴んでんのはこんなとこ。で、お前はいつ襲撃かけるつもり?」

「俺はいつでも構わない。そっちの準備が整い次第、殴り込みかけて片っ端からシメるだけだ」

「おお怖。いつまでたっても乱暴で喧嘩っ早いなぁお前らは。
 こっちはこっちですぐにとはいかねぇよ。なにせこれからぶっ潰すのは軍部のお偉いさんだからな。
 機を逸ればどれだけ武器を準備して作戦を組んでも数と火力で逆に潰されかねない」

軍部の取り締まりが過激化してきたのは、軍部にあのヘンテコな将校が居座ったのも原因の一つではあるが、
それを機と見た軍部が帝国政府に対して多額の「防衛費」を計上し、そしてそれが可決されてしまったことこそが、
過激化していく取り締まりの端緒であった。
そういう意味では、以前から抗争があったと噂のある「リューリュー」の、
つまりアルベリッヒの言葉はまさに現場を知る者の意見と言える。

「じゃあなんだ? その機ってモンは待ってりゃ来るのか?
 軍部に潤沢にカネが回ってる以上、そうもいかねぇ気がするが」

「あの将校サマはかなり妙なヤツだってのはもう話はしたと思うけど、
 時々お供も連れずに市街部へこっそり向かってるんだとよ。
 しかもそれ、この辺りらしいぜ?」

まるで、お前はそんなことも気付かなかったのか、と言いたげな顔でアルベリッヒは扇子を鳴らす。
その噂自体はどことなく聞いたことはあるものの、あくまで噂程度としか認識していなかった。
だが、アルベリッヒがそれを作戦の要項に食い込ませるということは、ある程度信憑性のあるものだったのだろう。

「……なるほどな。そこを叩くって寸法か」

「こっちがどれだけ手勢を揃えてもあのクソ野郎どもは一度には死なねぇ。
 ならうすーくそぎ落としてやるまでだ。降参するまでな」

「あとはその情報の精度を徐々に高める作業が入るワケだが――」



「彼はオムライスを食べにこの辺りに来ているようですよ?
 私は彼に会って挨拶もしているので、ある程度確実な情報だと思いますが」



振り向くと、ニコニコと笑っている銀髪の男が、さも当然のように立っていた。

「いつからそこにいた、リオルラ教」

「いつからと申されますと難しい所ではありますが、
 さっき通りすがりにあの将校様のことについてお話しておりましたので、
 私もお話に混ぜていただきたいなと思いまして」

「そうかよ、じゃあ死ね」

アルベリッヒは銀髪の男が行儀よく答えきったのを待って、
持ち込んだ暗器で銀髪の男が立っていた場所を横に凪いだ。

「おっと危ない。私はお話をしたいだけなのですが……」

しかし、銀髪の男はかわらず「そこ」にいた。


刃が真一文字に通ったはずの、アルベリッヒの背後に。


肉を断つような感触がないアルベリッヒは多少驚いていたが、
すぐに銀髪の男に向き直り、臨戦態勢に入った。

「暴力は何も解決しませんよ?」

「解決がどうとかンなことはどうでもいい。知られたからには殺す。動けば殺す。動かなくても殺す」

「私は貴女方に協力しようと思ってこちらに参ったのですが……」

「はっ! 敵が敵ですって言うわけがねぇだろうがひょろもやし。
 おいグリューネン! いつまでボケてんだコラ!」

アルベリッヒから非難交じりの檄を飛ばされ、グリューネンはため息をつきながらおもむろに立ち上がった。
どこかでガラスがいくつも割れる音を聞きながら。

「やめとけ、アルベリッヒ。そいつはこっちで根回ししといた『協力者』だ」

「はぁ!? 宗教で慈善活動するようなヤツだぞ!?
 あたしの情報網ですら荒事に関わった記録はねぇ。
 なのに―」

「記録がねぇのはそこに記録する奴が誰一人いなかったから、だ」

怒り狂う猛虎を、グリューネンは頭を搔きながら押さえつけた。

「昔のことだ。こいつ、ラーゼルトが俺らのシマに単身カチコミに来たことがある。
 しかも今みたくお話しましょう、とか宣ってな。
 もちろん今のお前みたくボコボコにしてやろうと取り囲んだんだが、
 それでもなお態度は変わらねぇ」

イヤな出来事を思い出すように、グリューネンは続けた。

「いけすかねぇ態度だったからってリンチにしたが、
 何度殴ってもピンピンしてやがる。しまいにゃ俺らの方が疲れてグロッキーになっちまった。
 それでもなお、お話だお話だって言うもんだから、俺がナイフで刺そうとした」

「その節はどうも。あの後は大丈夫でしたか?」

銀髪の男、ラーゼルトは何も気にしてない様子で慇懃に挨拶をした。

「……見りゃわかんだろ、クソ野郎が。
 ともかく、ナイフが刺さる直前に、こいつがフッと動いたかと思ったら、
 そこにいた奴ら、俺を含めて全身ズタボロにされてたんだよ」

「手加減はしたのですが、やはりやり過ぎでしたかね?」

「うっせぇ黙ってろ!
 しかもその上でこいつは『これでお話、できますよね?』とかぬかしやがった。
 『俺』でも見えてなかったんじゃ俺には対処すらできねぇ。
 俺以外全員のびてやがったから、大人しく俺がお話とやらに従うことにした。それだけだ」

「……あのグリューネンが大人しく従うのはどんな魔法を使ったのかしらねぇが、
 聞く限りでは腕っぷしだけは確からしいな。だがそれがどうした。
 単純にお前がボコられただけって話で信用しろっつーのは無理があるだろう。
 ヤクでもやって頭ラリったのか?」

アルベリッヒは変わらず警戒態勢を崩さない。

「そんな事の為に俺の恥ずかしい昔話をしたかったんじゃねぇよ。
 ラーゼルト、『目を開いて』みろ」

「私はもう目を開けているのですが……」

ラーゼルトはわざとらしく肩をすくめた。

「なら開けさせてやるよ」

そう言ってグリューネンはラーゼルトの懐に潜り込み、彼の顎めがけてするどいアッパーを放った。
人より膂力があり、かつそれを鋭く一点に集中させたグリューネンの拳を受ければ、
いかに屈強な男であっても、意識を刈り取ることは容易なはずであった。

振り被った拳は、まるで今まで「協力しよう」と言っていたグリューネンとは異なり、
明確な敵意がそこにはあった。

しかし、その敵意に満ちた拳がラーゼルトの顎を正確に捉えてなお、ラーゼルトは平然とそこに立っていた。

「もう、いきなり危ないじゃないですか。そういうことはあまりしないようにと申し上げていましたよね?」

ラーゼルトは子供を咎めるような口ぶりで、グリューネンに歩み寄っていった。

「こうでもしねぇとわかりにくいだろうが。
 ……さてアルベリッヒ、俺はこいつに殴りかかった。合っているな?」

「何を当たり前のこと抜かしてんだ。
 そろそろあたしもイライラしてきたから次妙なことをくっちゃべったらお前から切るぞ」

冗談ではなく、本当に切る。
アルベリッヒの眼はそうグリューネンに語りかけていた。

「はいはい、じゃ、ラーゼルト。あそこにブッ壊れたドアがある。
 あそこを『見ろ』」

「正直気は進みませんが。『見る』だけですよ?」

そうして銀髪の男がゆっくりと瞼を押し上げていく。
その視線の先にあったドアは、数瞬の後、何かが爆ぜるような音を立てて、空を踊った。


「は? なんだこれ。マジックのつもりかよ! どういう仕組みで見たモノがそんな音立てるっていうんだよ。
 グリューネン、ちゃんと説明しろ。仮にもこいつが味方だってんならな」

「……俺にも理屈はわからねぇし、こいつも説明しようともしねぇ。
 わかってんのは超常現象だってことだけ。しかもこいつが来たことを、あの時『俺以外誰も』覚えていなかった。
 どういう理屈かさっぱりわかんねぇが、結果だけ言えばそのせいで『こいつの記録が無ぇ』んだよ」

グリューネンの答えに満足しなかったアルベリッヒは頭を抱えながら、ラーゼルトに向き直った。
もし仮に同じ現象が起こるなら、自分がいくら攻撃を加えたとて先ほどのドアのようになるだけかもしれないとは思いつつ、やはり警戒を解くことはしなかった。

「で、その『記録がない』品行方正で慈善活動に精を出すような宗教の親玉サマがどうしてここにいるんだよ。
 いつもみたく意味もないゴミ拾いもせずに」

そうアルベリッヒが質すと、ラーゼルトは顎に手をあてて、考え込むような素振りを見せた。
そして、口を開くと、


「うーん、強いて言うなら、軍部に一度消えてもらいたい……からですかね?」


将校に復讐、といった、グリューネン達よりもさらに大きい野望が、痩身の身から転がってきたのである。

「だそうだ。あとその理由も聞いても無駄だ。
 お前に会う前に俺がさんざっぱら尋問したが理由の『り』の字も吐きやがらねぇからな」

「……お前はこんな素性も腕っぷしも、裏切る危険性すらもよくわからんアホを連れていくってのか?」

アルベリッヒらが所属する裏の『商会』では、統率を取って動く。
そして、その統率の見返りとして、莫大な利益を分け与え、そして手に入れる。
これは裏切り裏切られるのが当たり前の、『悪』の世界で生きる為の方策だ。

しかしこれはあくまでアルベリッヒの悪であって、グリューネンの悪とはまた違う。

「ンなもん気にしてたら『空凪ぐ流星』なんて名乗ってらんねぇよ。
 俺らは元々ぐちゃぐちゃに集められた寄せ集めだからな。
 気になるってんならリオルラ教の教え、つまるところこいつの行動原理を考えればいい」

「リオルラ教の教義ィ? なんでわざわざ覚えなきゃなんねぇんだよ」

さらにぶつくさ文句をつけようとしたアルベリッヒを遮って、ラーゼルトが口を開いた。

「リオルラでは、『勠力協心せよ。そして、目先の欲に転んだ裏切り者には、容赦ない誅罰を』と教えています。
 少々厳しいモノかもしれませんが、欲にくらんで金をせびる悪党を滅する誅罰は、教義に則ったものです」

それは、自らが『悪』となることを、まるで『正義』と言い換えようとするような物言いだった。

「それに、軍部の方々もつくづくクズが多いので、一度ここでゼロに戻そうということです。
 彼らの金の流れはアルベリッヒさんも大方つかんでいらっしゃる通り、私腹を肥やすためでもあるのですから。
 教義を掲げる人間が教義に違反していては、信徒の皆さまに示しがつきませんので」

ラーゼルトはいつも信者に、そして市民に向けるようにさわやかな笑顔で、
そして悪を誅する、と言いながら、『悪』へ加担することを表明したのだった。

------------------------------------------------------------------------

1000PVありがとうございます。 
コメント、ブクマ等々、励みになっています。




▲ページの一番上に飛ぶ

  << 前の話                   目次                   次の話 >> 


―某小説サイトより【タイトルは作者希望により匿名】、第二章第三話より引用




 

bottom of page