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THE HEROES Tend To Come Late.

Composer : Ask.A

「閣下!どちらへ?」

目の前で目を三角にしているのは俺の部下、フュンネ・エンネース。
堅苦しい軍服を取っ払って、ラフな格好で外に出ようとすると、
いつも決まって止めにくるのだ。

何故わかるのか、と聞けば閣下の考えてることくらいすぐにわかります、
とだけ答えてプリプリ怒りながら去っていったことも記憶に新しい。

さて、ここらで俺について喋った方がこの作品上進みが早いだろうから、
作品において必要だと思われる所のみピックアップしよう。
モノローグは主人公にのみ許された聖域なのだから、ここで俺が自分語りを始めても何もおかしくない。

半年くらい前だろうか。
俺はこの国に「飛ばされた」。

最近流行りの言葉で言えば、「異世界転生」とかいうヤツだ。
いやそんなバカな、と思うだろう。
俺もずっと思ってたし、今でもそう思ってるけど、
目の前の光景は、夢と違っていつまでたっても代わり映えはしなかった。
あっちに飽き飽きこそしてはいたが、こっちはこっちで退屈ではある。

何故かといえばこっちの「俺」は軍部のお偉いさん……というと、
正確でないが、まあそこそこの裁量を与えられており、
日々仕事に忙殺されるのだ。
つまるところあっちとやる事は変わっちゃいない。

閑話休題。

いつものように右手の人差し指を上に掲げる。
するとゲームのようなメニューが……

「惚けてないで答えていただけますか」

出るわけなく、フュンネに詰め寄られていた。
そういうタイプの異世界転生ではないのだ。

「すこーしばかり市井を散策に、な」

ちょうど立てていた指を口の前に持っていき、
他言無用だぞ、というジェスチャーをする。

「いつ何時賊に襲われるとも知らない所へ、
 石橋を叩いて叩き壊すような閣下が護衛もつけずに向かう理由など何一つないかと思われますが」

「慎重だと言ってくれよ」

「でしたら!」

フュンネは見ての通り、お堅い軍部の典型のような女性である。
美しい女性であることは確かだ。年齢は聞こうとする度に圧を感じるのでわからないが、
見た目としては俺と同い年くらいに見える。
しかし誰かに言いつけられているのか、それとも部下として進言しているのかはわからないが、
毎回まるで掃除しきれていない箇所を見つけた姑のように詰め寄ってくるのである。

そうなると如何にフュンネが綺麗な人であっても、

「だが俺がここでふんぞりかえっていても意味はないだろ?
 今日の仕事は終わったんだから、お前も楽にしろ」

こんな鷹揚な態度になってしまうのは致し方ないのだ。

「命の危険もあるのですよ!居住区には色々悪い噂も聞いていますし!
 強盗が最近出たなんて話もあるんですよ!
 せめて私を連れて行ってください!」

あーうるさい。
ここでも同じことだろうに。
というか、なぜここまでして彼女は俺を居住区へ行かせまいとするのだろう。
俺もたまには息抜きしたい。

「わかったわかった、気を付けるよ。
 だが連れて行ってお前に何かあったらお前の親御さんに顔向けできんからな」

そういってフュンネを制しつつ、俺は居住区へ向かった。

 


本当にフュンネが来ていないかどうかはわからないが、
俺は居住区のメインストリートへやってきた。
「目的地」にたどり着くには、ここに来るのが一番早い。

市場に目を向ければ、
夜になったためか一部は店じまいをしていて、
昼間ほど活発な印象は持てなかった。
せっかく居住区へ来たのだから、市場のうまいモンをたらふく食いたかったのだが。
もうすこし早くフュンネを振り切れば良かったな、と思った。

ため息を一つつこうか、という時であった。

「誰か、そいつを捕まえてくれ!泥棒だ!」

という声が響いた。

その声の方向を向くと、

「どけ!死にてえのか!」

とあまりにもわかりやすい悪党が、こちらに向かって走ってきていた。

仮に半年前に「飛ばされた」身であったとしても、
軍部に属する人間としては、見逃すわけにはいかんな。

そう思った俺は、悪党の居る方向へ向き直った。
脇道はないのでアイツがこの道を抜けるとするなら、
よっぽど奇抜な策を弄するか、俺を避けるかしかない。

走ってくるアイツは、どうやら後者を選択しようとしているようだ。

「どけって言ってんだよ!」

俺はそう言いながら近寄ってくる輩の足を払った。

「どけと言われてどくんじゃ俺の沽券にかかわるんでな」

そう言いながら無様に這いつくばった下手人に近づく。
相手も呆気にとられたようだが、すぐに逃げようとしたようだが、
それよりも俺の行動の方が速かった。

「さて、これで動けないだろ。
 ああいや、動けるけど動くとめっちゃ痛いらしいぞ。
 お前がマゾじゃなきゃじっとしてろ、じゃあな」

特殊術式。
……異世界転生モノだとそういうのあるだろ?
まさしく「そういう」もので俺はこいつを「縛り付け」た。

読者諸君はこう思うことだろう。なんてチートだよ、と。
だが異世界転生はチートと抱き合わせであることが多いことも読者諸君はご承知のはず。
だから、この物語においても「そういうもの」があったということだ。
突然魔法っぽいものを出したのはそういう理由である。

閑話休題。

「ぐっ……がぁ」

悔しそうににらんでくるこいつには少し気の毒だが、
「これ」はかなり長い時間そのままだ。

後はここの住人が勝手に憲兵に突き出してくれることだろう。

 


―――――
―――
――

その後無事盗人はしょっぴかれ、盗まれたものも無事取り返した。
そいつは最近巷を賑わせていた強盗だったことは後で知った。
強盗にしては手口が雑な気もするが……。
まあいい。俺の知ったこっちゃない。

いくら顔があまり知られていないからといって、軍属である俺が表立って、

「俺が捕まえました!」

なんて言うと悪い意味で目立つので、俺は毎回こうしている。

……すっかり遅くなっちまったな。

そう思いながら、馴染みの店の扉を開ける。

「らっしゃい、……ってアンタか。注文は?」

「いつもので頼む」

「うーい」

そう言って店主は奥に引っ込んだ。

俺がこの居住区へ来る主な目的の一つは、ここのオムライスを食べることだ。
向こうで色んなものを食べたものの、やはりここのオムライスは絶品だ。
時々恋しくなって、こうやって仕事の疲れを食べて癒すために訪れるのである。

「あーい、おまちどお」

芳醇な匂いが漂ってくる。ああ、このオムライスを俺は待ち望んでいたのだ。


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―某小説サイトより【タイトルは作者希望により匿名】、第一章第一話より引用

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