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Vanity Call

Composer : 4696-D

prrrrr...

prrrrr...

prrr――ガチャ、

 

 

 

 はいこちら、めーかいでんわそーだんしつー。

 しんりししにがみミタナです。

 しにたがりさん。はやく悩みをぶちまけてください。

 

 しんりししにがみ、分からないんですか? 心理士――カウンセラーのしにがみです。わたししにがみですよ。

 疑ってませんか? ほんとうですよ。嘘つく必要ない、です、しね。

 

 ……そうです。その認識で間違いないかと。

 人間さんの世界に蔓延してる概念と、そう遠くないと思います。

 魂を運んだり、魂の処理をしたりと、人間さんの人生のアフターケアの担当です。

 ここは、しにがみの電話相談室なんです。

 

 なんで、しにがみなのに相談、って? この説明で分かりませんか?

 ……ちょっと伝わりづらいですかね。この相談室、めーかいって言っても、単純明快の「明快」じゃないです。しんだあとの世界、「冥界」――あの世のほうです。しにがみですしね。

 

 まあ、口伝えで聞いたなら誤解するのも納得です。都市伝説にして、知る人ぞ知るって感じにしてますしね。

 あ、ここですか? はい。めーかいですよ。ハデス様、いらっしゃいますしね。わたしみたいな下っ端が話せるような相手ではないのですけど。

 

 ……「めーかい」は、よく勘違いされて困ってます。いちいち説明するのもめんどいんで、ウェブサイトでも作ろうかな……。

 

 それで、悩みは何ですか。

 ……なんですか? 口ごもって……。

 質問もないのに電話かけてきたんですか?

 ……仕事の邪魔しにきたんですか?

 ……えっ、それイタズラ電話じゃないですか。はあ、正気ですか。

 あのー、クソデカ溜息ついていいですか、自分。 

 これ、本当にしにたい人のための相談室ですよ。

 

 いやいや、冗談じゃなくて。

 

 わたしこれでも、れっきとした相談員ですよ。滅多にかかりもしない電話機の前で待ち続けて、やっと掛かれば、3回目のコール音と共に受話器を取る。それで、てきとーに話聞いて、てきとーに褒めてあげれば、しぬなんてめんどくさいこと、しなくなるんです。

 

 わたしね、プロ意識だけは高いんです。どんなにしにたがってる人がきても、じさつを止めちゃえるんですよ。それがわたしの生き甲斐ですしね。このブラックすぎるめーかいで、下っ端のわたしに任された仕事ですしね。

 

 どーですか、わたし、えらいでしょう。偉大でしょう。褒めてくれても良いんですよ。

 

 ……少しは感心した声を出してくださいよ。わたしが報われないじゃないですか。

 これでも怒ってるんですよ。むきーってくらいに怒ってはいます。

 ……怒ってるように見えない?

 

 あなた、ぶっころしますよ……。

 わたししにがみなので。

 鎌で喉掻っ切ってやりますよ。

 

 ……にへ。

 

 ……実は鎌なんて持ってないんですけどね。わたし下っ端なので。

 

 それにしても、あなたも物好きですね。この電話が繋がったってことは、わざわざ旧型の黒電話で、儀式を行ってからかけたんでしょう。そうしないと繋がらないように、オペレーターの方にお願いしているんで……。

 

 あ、こっちの世界だと、交換手もしにがみがやってるんです。ええ、未だに手動ですしね。あなたたちの世界は発達してて羨ましいですよ。冥界にも5Gくらい導入してほしいものです。

 

 まあいいでしょう、あなたの愚行を許してあげます。わたしはやさしいしにがみですしね。

 

 あ、本音を言うなら……。

 あなたをころすとその後の処理が面倒くさいんです。始末書を書かないといけませんしね。

 ……ちなみにこの始末書、文字通り、あなたの魂の「始末」という意味なんですけど。

 

 ……少しくらい笑ってくださいよ。

 とっておきのしにがみギャグなんですよ。使う場所がなさすぎて、ずっと頭の中に溜め込んでて、やっと言う機会が巡ってきたと思ったら……わたしの労力はどこいったんですか。

 

 ……もしかして、笑えないんですか?

 ……あなた、ひょっとして実はしにたがってませんか?

 

 えと、話を元に戻しますね。

 むやみに人をころすと、魂の運び屋さんからおこられるんですよ。1日あたり何人しんでると思ってんだ、われわれの手間を増やすな、って感じで。

 ……まあ、あのしにがみさんたちも、ちゃんと定時には帰ってるんですけど。

 とはいえ、誰だって、無駄な仕事を増やしたくはないでしょう?

 

 しにがみだからって、むやみやたらころすんじゃないんです。

 逆ですよ。無駄にしなせないために、わたしがいるんですしね。

 

 というわけで、わたしは次に電話をかけるときは、ちゃんと悩みを用意した上で、黒電話の回転盤に付いてる指止めを、カッターの刃に付け替えて、それからかけてきてください。

 生きていることを実感できますよ。回す度に肉がえぐれて痛いですしね。

 ……あとほら、痛みがある方が正常な判断できますしね。

 電話は午前5時まででお願いしますね。わたしも定時には帰りたいんで。

 

 それで、満足しましたか? 用が終わって悩みがないなら、とっとと電話をお切りやがれください。ほんとうに悩みがある人のお電話が取れませんしね。

 

 あ、わたしのしにがみトークがたのしかったら、SNSとかで拡散しといてくださいね。

 

 え、悩みならある……? 切らないで……?

 

 先に言ってくださいよ……。時間の無駄じゃないですか……。

 せっかく連日の毒素を吐き出したと思ったのに……愚痴をぶちまけた相手が相談者さんだったとなったら、相談時間が増えるじゃないですか……。

 

 ……あ、謝りませんよ。あなたがウジウジしてたのが悪いんですしね。

 

 いや、ね、最近特に多いんですよ。たいした相談事もない有象無象ぴーぽーが、都市伝説を試してくるんです。そういう人たちに限って、繋がったらわーきゃー騒いで、すぐ切っちゃうんですよ……。

 それであなたもその類かと思って話し続けてるのに、全然切ってこない。おかしいって思ってたんです。

 

 もー、最近は、都市伝説を試してくるやべーのしかいませんよ。

 一昔前はですね、雑誌の記者さんが取材でかけてくることが多かったのですが、最近では……配信? なんとかチューバ―……? そんな、本当に仕事かも怪しい「うぇい」な人ばっかりです。

 ああいう人たち、生きてて面倒くさくならないのかな。温度の違い、すごく感じます。

 ハイテンションではしゃいで、わたしのことを聞いてくるんです。

 

 たとえば……あのときとか。

 

 いまいくつ、って聞かれました。

 15歳です、って答えました。

 もっと年上の設定にした方がいいよって、言われちゃいました。

 

 ……いや、ほんとうに15歳なんですけど。

 どう答えればよかったんですか。

 

 そりゃあ、666歳とかの方がバエるのは分かりますよ。666歳は「冥寿」といって、盛大にお祝いするじゃないですか。あなたの世界でもそうでしょう? ……あ、人間はたった100年もしたらしぬのか。

 先輩だと400歳超えてたりするんですけど、わたしはまだ15歳なんです。……666歳を迎えるしにがみも、遠い昔に15歳を経験してるでしょう。

 ……盛った方がいいんですかね?

 

 まあ、良いです。ともかく、相談者じゃない人が電話かけて来て、しょーもないこと質問して、どーがとかいう媒体にして、相談室の存在を広めてるらしいです。まったく、迷惑な話ですよね。どう対策すれば良いんですかね、まったく。

 

 ……って、なんでわたしが相談する側に回ってるんですか。

 

 都市伝説は本物だからイタズラ電話はやめてください。

 って、どーがで宣伝しといてください。

 ……たぶん、逆効果でしょうけど。

 

 それで、今更わたしみたいなしにがみに何の相談なんですか。

 このままだと、わたしがエターナルにくっちゃべりますよ。

 言いたいことがあるんなら、はやく悩みをぶちまけてください。

 

 あ、やっと話すんだ。

 いや、あなたが急に自分語りを始めたものだから、気になっちゃって。

 いえいえ、続けてください。

 

 ふんふん、それで。

 ふんふん、あー。

 ふんふん、わかるー。

 

 ふーん、なかなかに人生詰んでらっしゃる方のようですね。いい気味ですよ。

 しにたい……? ころしてくれ……? はやくしぬにはどうすれば……。

 わざわざそんなこと相談しに来たんですか?

 よく平気でそんなことが言えますね。あなた、今までの話聞いてませんよね。

 

 しにがみは忙しいんです。わざわざしにたい人を迎えに行ってころすなんて、そんな暇ありません。

 いや暇は暇ですけど。わざわざ人をころしたい酔狂なしにがみは、激レア、SSR級ですよ。

 

 そんなにしにたいなら一人で……。

 いや、これ、言っちゃだめなやつでした。オフレコでお願いします。……こんなこと言ったらあなた、本当にしぬじゃないですか。それで下っ端のわたしが、とばっちりを受けるじゃないですか。

 

 えーと、こういうあなたにかける言葉は……。

 まー、すぐには思いつかないですかね。

 そこまで人生オワタなの、実は久々ですしね。

 

 うん。忘れましょう。今聞いたこと、わたし全部聞かなかったことにしますね。

 相談なんて面倒なこと、やめにしましょう。

 せっかくなので雑談しましょうか。

 

 そもそも、なんで、めーかいにこんな電話相談室ができたんだと思います?

 

 簡単に言うなら、悪い感情を抱えたまましぬ人を増やさないためですよ。人がしぬ直前の精神状態は、魂の処理に影響を与えますからね。じさつは最悪です。悪い感情しかありませんしね。

 魂を運搬する方々にとっては、幸せな気持ちのまましんでもらいたいようですよ。

 

 だから少しでも人間の悩みを消すために、しにがみみずから電話相談を引き受けてる訳です。他に人材もいませんしね。

 

 だからわたしたちとしては、ボケた老人になって、怒りも悲しみも感じない頭ぽわぽわ状態のまま、適当な病気でしんでもらうのが良いんです。

 お酒とタバコがお勧めですよ。簡単にガンにしてくれますしね。……まあ、ガンは結構いたいんですけど。あ、麻薬はダメ絶対なやつです。あれでしんだ人、処理が本当に面倒みたいで。面倒すぎて、運んだしにがみさんは定時前に帰らせてもらえるレベルですしね。

 

 あ、今のそっちの世界の技術なら、お医者さんに頼んで、日常生活に支障が出ない程度に扁桃体とかいう部位をぐちゃぐちゃにしてもらえば良いんじゃないですか? 感情がなくなれば、こっちの仕事はほんとうに楽ですしね。

 

 え、なんかいやだ? そうですか……。

 しにたいと軽々しく口にする割には、臆病なんですね。

 

 念を押しますけど、本当にじさつだけはやめてくださいね。仕事が増えるのは嫌なんです。しにがみといえど、仕事拒否することもあるようですよ。

 天国にも地獄にも行けずに、延々と現世をさまようこともあるかもしれません。

 

 ……ところで、天国ってあるんですかね?

 いや、わたししにがみなので。生きてるしにがみなので。しんだ後のことはしんでみないと分からないというか。

 

 あ、一応ですけど、いわゆる「無敵の人」とかになって、女性子供その他自分より弱そうな人を見つけて刺しまくるのも禁止です。後に残されたその他大勢の精神に響きますしね。

 せんそーとか最悪ですよ。運び屋さんがかろーししちゃいます。もう、ろーさいです。

 

 そういうわけで、あなたに残された選択は1つです。

 この世界で、せいぜい老衰まで生き地獄を味わってください。それでどうしても幸せになれないというのなら、快楽も痛みも判断つかないほどボケてから、可及的速やかにしんでください。

 

 ごめんなさいね、こんなこと言うのは酷かもしれないですけど……。今のあなたはあなたの世界で邪険にされているのかもしれませんが、わたしたちの世界にもいらないんです。

 

 しんらつ……? いえ、正直なだけです。甘えた言葉を言うつもりはありません。相談室と謳ってはいますが、要するに、じさつやめてねって言うためだけの窓口ですしね。

 

 大丈夫ですよ。話してみた感じ、あなたはそんな悪い人間じゃないと思います。

 他人の幸せを奪ってでしか生きられない人間の方が、悪い人間だと思いますよ。しにがみからしても、そういう人は勘弁してほしいですね。その人の魂はべつに良いのですが、周囲の人の精神状態がそれ以上に悪くなりますしね。なんか、自爆テロみたいですよね。

 あなたは、自分の悩みを他人に向けないだけ、それだけで立派です。

 

 とにかく、しぬまでは、せいぜいその世界で生きててください。

 お願いですから、面倒くさいしにかたするのは、やめてくださいね。

 

 最後に、これは耳より情報なのですが……。

 

 精一杯生きた老人の魂は、たとえ人間の世界でどう思われてようが、そんな悪いものじゃないみたいです。何をしてようが、時間は確実にあなたをころしてくれます。ヨボヨボになるまでの間、働くなり遊ぶなり、てきとーになんか見つけて、ぼーっとぼっとーしててください。

 

 もしあなたが、そうやって、しんでくれたなら――。

 いくら面倒くさがりのわたしでも、魂を迎えに行くくらいのことは、してあげますよ。

 

 この電話も少しは楽しめました、しね。

 それがわたしの仕事、です、しね。

 

 ……にへ。

 

~帝国暦????年 全てを失い藁にもすがる思いで都市伝説を試した誰かの受話器から~

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