Eupholic Journey -The Journey Never Ends-
Composer : DJ TSAR
すっかり見慣れた田舎の道を、私は性懲りもせずに歩いている。目的地はいつもの図書館だ。しかし、その目的は昨日まで──厳密にはこちらの世界の昨日までということになるが──とは異なり、その足取りも決して軽やかというわけではなかった。
旅を終えた私は、いつか旅の始まりにも訪れていた港町まで戻ってくることになった。あの小高く、街を眺望することができる丘では、最後まで神を自称した男・マグヌスが待っていた。結局彼を頼らないといけないような事態には陥らなかったものの、顔を見たら二言三言は文句を言ってやろうとずっと思っていたところだったので、旅行中の苦労や個人的な愚痴や有象無象など、とにかく思いつく限りにぶつけた。そんな私に対して、相槌を打ったり興味なさそうに聞いたり、時折面白そうに質問したりと彼は彼なりに忙しそうにしていた。
それから、マグヌスの相変わらず片付いていない研究室に戻り、雑な見送りを受けて出入り口の扉から先へ進んだあたりでふわっと意識が遠くなり、次の瞬間には自宅の布団の上で朝を迎えていた、というわけだ。
どうやって自宅の布団まで戻ったのか、とか。あっちに行っていた間、自分がどこにいたのか、とか。
よくよく考えれば、気になることは山ほどあった。
ただ、ベッドの上でアレコレ悩んでも答えは見つからないだろうし、とりあえずいつもの図書館へ向かってからそれらを考えるのが早いかと判断して、こうして家と電柱以外何もないような団地の道を歩いている、というわけだ。
しかし、例の曲がり角に差し掛かってみても、その先の図書館に入ってみても、もうどこにもユーフォリア帝国に関するものはどこにもなかった。「帝国」は、完全に私の前から姿を消してしまったようだ。
無駄に居座るのも時間の浪費なので、ひとまず自宅に帰宅しようと図書館を出たところで、別れ際のマグヌスの言葉を思い出した。
『旅行はどうだったかな? 世界の広がりは、遍く観測とともにある。見えているものがこの世のすべてじゃないのさ。それを、よく覚えておくといい』
こうして、帝国を取り巻くあの世界へ別れを告げたわけだが、名残惜しくなった私はその時の記憶をたぐり寄せながら、まさしく今あなたが読んでいる文章を書きあげているところである。そしてこの文章を誰かが読むことで、「帝国」は誰かから誰かへとつながっていく。ユーフォリア帝国は、確かにまだこの場所に存在し続けていく。
旅は終わらない。目的地とは単なる終着点ではなく、次の旅の出発地なんだ。「私」も、「あなた」も。前に進む限り、旅人をやめることはできない。それは怖いことや、まして大変なことなんかじゃあないんだ。きっとあなたにもわかる日が来る。
そろそろ私は次の旅に向かうことにするよ。帝国の話もずいぶん書いてみたし、大体のことは記録に残せたと思う。書ききれなかったことは、次に会うときにでも教えるよ。
それじゃあ、また会う日まで。