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Calamity Edge

Composer : 4696-D

アニメ『マギ・ア・マギ・オンライン』 脚本

 

第1話「現実(リアル)・ア・仮想(バーチャル)」

2013/4/6 放送分

担当者:マインラート・ガーデック

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登場人物表

エリオット・ナタルシェフ (男・17) マギマギ好きの男子高校生

 

リディア・ナタルシェフ  (女・14) エリオットの妹。ブラコン

ネル・マッキーナ     (女・17) エリオットの同級生。クラス委員

レイン・アウグスタン   (女・17) エリオットの同級生。休みがち

 

ケルベロス        (不明)   ゲームマスター。外見は犬のぬいぐるみ

 

リゲル・ナタルシェフ   (男・41) エリオットの父。マギマギの開発チーム所属

サマンサ・ロナード    (女・43) エリオットの母。家出中

教師           (女・34) エリオットのクラスの担任

ナレーション       (女)    マギマギのCMの声

○現実・学校・昼(1話はOPなし。この場面でスタッフ表示)

青天の学校、花壇の花が揺れている。

教室の窓は開いていて。教師の声が響く。

教室の中、教師が授業をしていると、横スライドの扉が開かれる。

エリオット・ナタルシェフ(17)が出て行こうとする。

一度教室内に振り返る。

 

エリオット   「うぃーす、みんなおつかれ。今日アプデなんで失礼しまーす」

 

エリオットが腰を曲げたまま、手を振る。首だけ動かして一礼

ネル・マッキーナ(17)をはじめ、教室の生徒がエリオットを向く。

 

教師      「まだ授業中だぞ。VRはチャイムが鳴ってからにしろ」

 

教師のセリフ中にチャイムが鳴る。

 

エリオット   「今、鳴りました。という訳でお先」

 

エリオット、一礼する。

静まり返る教室。教師が、口を開けたままチョークを落とす。

 

エリオット   「なんでみんな固まってんだ。ま、いっか」

 

エリオットが鞄を背負い、廊下を歩く。

昇降口から外に出ると、エリオットはスマホを開く。

画面にはSNS。マギマギの「バージョン2、本日リリース開始」という告知を閉じ、リディアとの個人メッセージへ画面を移行。

エリオット   「お兄ちゃんは学校終わったぞ」

打ち込んで送信。

すぐさま画面を切り替え、パズルゲームをしながら廊下を歩く。

 

エリオット(M)「かつて、ゲームとは趣味でしかないものだった。だがそれはもう昔のこと。時代と共

に、ゲームは人間社会に強く根付いてきている」

 

マギマギ開発室。リゲル・ナタルシェフ(41)がパソコンの画面に向かっている。メガネに反射する画面が目まぐるしく変化する。

 

エリオット(M)「ゲームを作って稼ぐ者」

 

女の子のピンクの部屋、誰もいない。パソコンの前に、カメラとマイクが雑に置かれている。

エリオット(M)「実況して人気を集める者」

 

教室、ネルの机。

ネルは筆箱にスマホを隠し、ゲームのダンジョンをクリアする。

画面には全国ランキング1位の文字。ネルは口元で微笑む。

エリオット(M)「ランキングで自分の実力を示す者」

 

外に出たエリオット。スマホには、パズルゲームの画面。クリアの文字。

 

エリオット   「よっしゃ、クリア!」

 

エリオット、空いた手でガッツポーズ。

 

エリオット(M)「誰もがリアルの時間とバーチャルの時間、2つの人生を満喫している。んで、俺のゲー

ムの向き合い方というと、それはもちろん……」

 

校門につくと通知音。リディアからのメッセージ。

 

リディア    「リディアも終わり~、今日は一緒にマギマギするもん。すぐ行くね♡」

 

エリオットがクスっと笑い「絵文字打つ暇があったら急げよ」と返す。

そして、前を向く。

エリオット(M)「俺にとっては、ゲームこそが現実だ!」

エリオット   「えっ……」

エリオットが昇降口を見ると、校舎でレイン・アウグスタン(17)が手を振り、走ってくる。革靴、ニ―ソックス、スカートが翻り、制服のリボン、髪を揺らしながらやってくる。

両手を膝につけ、息切れしながら顔を上げる。

 

レイン     「(かすれ声で)あ、エリオットくん。その、きょ、きょう……」

レインが、頬を赤くし、手を組んで擦る。

 

エリオット           「ごめん。えっと、誰だっけ」

レイン                 「(裏声で)ううん! (咳払い)なんでもないっ!」

 

レイン、走り去る。エリオットは後ろ姿をぼうっと眺める。

レインは後ろ髪を揺らし、逃げるように走る。

 

エリオット           「あれー、誰だったっけなあ」

 

エリオットは再びスマホの画面を開いて、ゲームに没頭。

 

エリオット(M)「まあ、関係ない。俺にとってこの世界は、バーチャルだ」

○現実・電車の中・夕方

電車が線路を走る。車内には疎らに人がいる。

車内広告でマギ・ア・マギ・オンラインのCMが流れている。

ナレーション  「マギ・ア・マギ・オンライン。バージョン2! 世界初のVRMMOが遂にバージョン

アップ! 五行思想、占星術、精霊魔法など、使える魔法はもはや無限大!? 魔法と魔法の力で、未開拓の世界を冒険しよう! マギ・ア・マギ・オンライン。バージョン2、本日リリース!」

 

○現実・駅の出口・夕方

空いた車内から人が出ていく。改札。駅の出口に人。

高架下で、エリオットと自転車を引いたリディア・ナタルシェフ(14)が、並んで歩く。

 

リディア    「それでお兄ちゃんは、あの子に一目惚れしちゃった、と」

エリオット   「そんなんじゃねえよ。ただ見とれただけだっつーの」

リディア    「え~ウソ~、じゃああの子が一目惚れしちゃったんだ」

エリオット   「俺がそんなモテるように見えるか?」

リディア    「(独り言のように)ん~、答えにくい質問しないでよ!」

リディアが頬を膨らませてエリオットを睨む。

エリオット、リディアの頭の上に手を乗せて、撫でる。

エリオット   「ま、俺の恋人はゲームだけだよ」

リディア    「わ、わ、わあ~、急だよ、お兄ちゃん」

リディア、自転車を止めエリオットの腕に抱きつく。

リディア    「じゃあ、今日はお兄ちゃんを独り占めするのですっ!」

エリオット   「うわあ、分かった、分かったから! そもそも今日は、一緒にマギマギバージョン2

をやるって言ってたろ? その為に早く学校も出たんだから」

リディア    「そんなこと言ってお兄ちゃん……。すぐ別の女の子に浮気するんだもん……。

今日一目惚れした子とか」

エリオット   「あれは完全に事故だって。なんか昔会ったことあるかなって思っただけで」

リディア    「問答無用だもーん!」

じゃれつく2人を、ネルが後ろから眺めている。

○現実・ナタルシェフ家・夕方

家の扉を開ける、暗い家。

リディア    「たっだいまー。あっ、誰もいないんだった」

エリオット   「あ、お母さんなら家出中だぞ」

リディア    「知ってるもんっ! だからリディアが鍵持ってるんじゃん」

エリオットがリビングで家族写真を手に取り、ため息。

エリオット   「あのクソ親父、こんな時も仕事だもんな」

リディア    「お兄ちゃん、お母さんから手紙もらってるんでしょ」

エリオット   「ああ……」

エリオットの回想でサマンサ・ロナード(43)が旅行カバンを引いて、笑顔で手を振っている。

サマンサ    「おとーさんが愛してくれないので、一週間くらい母親ストライキするね。食料品は買っ

たし、洗剤も棚に補充したからそれ使って。学校にはちゃんと行くこと。じゃ!」

 

サマンサは手を振って出ていく。

エリオットが自分の額に手を当てる。

 

エリオット   「本当にどこに行ったんだよ。ウチの親は……」

リディア    「お父さんはずーっと仕事だからね。お母さんが寂しくならないように、すぐ傍の恋心に

気付いてあげなきゃいけないんだよ。だから今日のお兄ちゃんは、リディアを愛して愛して愛しまくって……痛っ」

 

エリオット、ヘッドギアでリディアを叩く。

 

エリオット   「バカなこと言ってないで、さっさとマギマギ始めるぞ」

リディア    「はーいっ。うんしょ、うんしょっ……」

 

リディアが制服を脱ぎ始める。

 

エリオット   「……ちょっとは恥じらいを持ったらどうなんだ」

リディア    「でもリディアはこれじゃないとVRに集中できないのです!」

 

リディア、ヘッドセットを着け、下着姿で仁王立ち。

 

リディア    「ねえ、今のリディア可愛いかな。このままお兄ちゃんと横になって、一緒にマギマギに

行って、ゲーム内結婚もしちゃおっか。そうだ、今日はこのまま一緒に現実でも寝て、禁断の……」

 

エリオット、2階へ上がっていく。

 

リディア    「って無視しないでよ~」

 

リディア、後を追いかける。

エリオットの自室。鞄を置き、身体のストレッチ。

 

エリオット   「やれやれ。困った妹だなあ……」

エリオット、ベッドで横になり、ゴーグルをはめる。

 

エリオット   「さ、そろそろ出発するか。現実へ出発だ」

白い光がエリオットの視界を包み込む。

 

○マギマギ・ログイン空間

 

白い空間に全裸のエリオットが現れる。

 

エリオット   「あれ? マギマギ……じゃない。前作にこんなとこ、なかったぞ」

ケルベロス   「当たり前ケル! 今作はシステムを一新したんだケル!」

 

カラフルな光と共にケルベロスが発生し、浮遊してエリオットに近寄る。

 

エリオット   「ん、なんだこれ。犬?」

ケルベロス   「犬じゃないケル! ゲームマスター、ケルベロスのケルちゃんだケル!」

エリオット   「あ、ああ……」

ケルベロス   「その顔はいまいち呑み込めてないケルね? いいケルか? ケルちゃんは本名をアビ

ス・ブロンズ・ケルベロス1世というこのゲームでいっちばーん偉いケルちゃんだケル! ちなみに頭は3つあるケルが、闇魔術でしまってあるケル! ってちゃんと聞いてるケルか?」

 

目線が合わないエリオット。固まるケルベロス。

硬直した状態で両者見つめ合う。

 

ケルベロス   「むかむかむかーっ! さては話聞いてないケルね、怒ったケル! 決めたケル! お前

だけチュートリアルなしケル! アップデートしたんだケルから1から666まで1つずーつ解説しようと思ったんだケルが、お前なんてどうせ説明しても無駄だケル! さっさとゲームの世界で野たれ死ねケル! 闇に呑まれるケル!」

 

ケルベロスの口に闇の渦が発生し、エリオットが浮遊して闇に飛んでいく。

 

エリオット   「待て、まだ何も話しうわあああああああああっ」

 

○マギマギ・ユカサス平原・昼

青空、どこまでも続く平原。

空中に黒い球が現れ、ボロの服に身を包んだエリオットが放り出される。

自由落下する。地面が迫っている。

 

エリオット   「ウオオオオオオオオオオオオオオッ、何かないのか!」

 

エリオットの前にステータス画面が出現。

レベル1、その他ステータスも全部一桁。

 

エリオット   「うわあなんか出た! レベルは1。所持品なし。服もボロボロ。どうすんだこれ! あ

のワンコ、無茶ぶりし過ぎだ!」

 

エリオット、一度地面を向く。凄まじいスピードで迫る地面。エリオットは目を背け、再び画面を探すと、5つ並んだハートマークの欄がある。

 

エリオット   「魔法は? MPは? どこだ、えっとこれは……ハートマーク?」

 

エリオット、ハートマークに触れる。

と、ハートマークの淵が光り、光がエリオットを包み込む。

 

エリオット   「なんだ、なんだこれ、行けるっ! グラビトン!」

 

エリオットが手を地面に伸ばすと、光が地面に伸びて、エリオットの落下が緩やかになる。ゆっくりと着地する。息が乱れている。

 

エリオット   「なんだこれ。魔法、俺が使ったのか? あのハートは……」

 

エリオットがばたりと倒れ、視界が暗転する。

 

○マギマギ・アディヌ村教会

 

安らかなリディアの歌がフェードイン。

教会のステンドガラスにマリア像。一瞬だけ鳥の影が映る。

エリオットが、女性の太ももの上に頭を乗せたままゆっくりと目を覚ます。

ぼやけた女性の頭が見えるが判然としない。

 

リディア    「あ、お兄ちゃん、起きた?」

エリオット   「その声は……リディアか」

 

視界がはっきりする。と、大人の女性の顔が現れる。

 

エリオット   「誰だ!」

リディア    「誰って、さっき当ててくれたじゃん。リディアだよ。お兄ちゃん!」

 

白いストレートヘアに髪飾り。大きな胸、スラっとした体型。リディアは子供らしい満面の笑みを向ける。

 

エリオット   「本当にリディアなのか?」

リディア    「さっきからそう言ってるもん。リディアです! どう、大人の色香に惹かれちゃった?

一緒にお布団行っちゃう?」

エリオット   「本物だ……。どうしたんだよ、その外見は」

リディア    「へへー、なんかね。可愛いゲームマスターさんが来てくれて、リディアの魅力に気付い

てくれたんだよ。そしたら特別に、自由に服を選ばせてくれたのー」

エリオット   「(愚痴を言うように)どうなってんだこのゲーム。

俺はなんも説明されなかったぞ……」

 

リディアが身振り手振りで説明。

 

リディア    「村に入ってね。色々見て回ってたんだけど、教会に行ったらお兄ちゃんがいるんだも

ん。リディアびっくりしちゃった! それでねそれでね、回復魔法っていうのを習得して、お兄ちゃんを助けてあげたんだよ」

エリオット   「……そっか、ありがとな」

リディア    「えへへ~、もっと褒めて~」

エリオット   「調子に乗るな」

 

エリオットがリディアにチョップしそうになるが、手を止めて頭を撫でる。

リディアが照れてもじもじした後、エリオットの両肩に手を乗せる。

 

リディア    「じゃあさ、ご褒美にリディアのパートナーになってよ」

エリオット   「それを言うなら、パーティに入ってだ」

リディア    「ううん。パートナーで合ってるもん」

 

リディアがステータス画面を開き、ハートを指さす。

 

エリオット   「そうだ! このハートが俺を助けてくれたんだ。いったいこれ、なんなんだ?」

リディア    「それはね、ラブエンハンス! お兄ちゃんに愛を伝えると……えいっ!」

 

リディア、エリオットに抱きつく。

胸がむにゅっと潰れる。

エリオット   「うわっ、その身体で抱きつかれるのはキツいって」

ハート型のゲージが溜まっていくと、リディアは笑顔で上空に手を伸ばす。

 

リディア    「精霊魔法! ウィンドミル!」

 

リディアが上空に手を伸ばす。光が上昇し、凄まじい風が巻き起こる。教会のステンドグラスが砕け散る。

 

リディア    「あっ、やりすぎちゃった。リカバー」

 

弾けた破片が戻って、ステンドグラスが元に戻る。なぜかマリア様の胸が大きくなっている。

 

リディア    「お兄ちゃんへの愛の気持ちが、こんな風に魔力になるんだよ」

 

無邪気な笑いを見せるリディア。

 

エリオット   「愛の気持ちが魔力になる……? まさか!」

 

エリオット、ゴクリと唾を飲み込むと、走り出して教会の扉を開けて外に出る。村を歩くのはカップルばかり。寄り添いながら歩き、全員イチャイチャしている。

 

エリオット   「これ、クソゲーだ!!!!!!!!!!!!!!!」

​村の全景、イチャイチャカップルばかり。

 

○現実・ナタルシェフ家・夕方

 

外ではカラスが鳴いている。

ネル、道端からナタルシェフ家を見つめている。

家の中、VR空間に没入しているエリオット、リディアの姿。

ネルは身を翻し、去っていく。

外ではカラスが鳴いている。

○CM

~帝国暦2013年 ユーフォリア帝国・とある春アニメの第1話Aパートより~

第3話Bパートはこちら

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