The Mysteries of The Missing Link
Composer : BJ.chika
存在の偉大なる連鎖よ!
其は無限より汝へ、汝より非存在へ至る。
より優れしものに我等が迫るならば、劣れるものは我等に迫る。
さもなくば、混沌は空漠を生み落とし、道を誤りて、大いなる秩序は脆く砕かれるだろう。
自然の連鎖より環を一つ打ち落とせば、それがどれほどわずかであったとしても、すべてが壊れて崩れ去るのだ。
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私はかけ離れた歴史を繋ぐ――。
見えない鎖の環を探し求めるように――。
『その帝国の繁栄を支えた、高度な文明はいかにして発達したのか?』
誰もが知らない謎。有史以前、この地へどのようにして文明が息づき、どのようにして帝国が万世一系を維持して発展を続けてきたのか。それは原始の神秘であり、そして……。
誰もが信じていた。その理由が民衆の望む形で存在することを。失われた、しかし必ずどこかに存在する、幻視の環……。
私はあるとき、伝説に誘われて、失われた環を探す旅に出た。
曲輪に囲まれた未知の都市。誰も暴かなかった英霊の墓。氷に包まれた月下の神殿。
どうせ現世に格別の思い入れも無いので、誰も知らない軌跡を辿るうちに、誰も知らない鬼籍に入ることも考えたものだ。しかしながら意外なことに、向かう聖跡どこもかしこも、私を温かく迎えてくれるのであった――まるで、帰郷してくる我が子を待ちわびていたかのように。
そして〝彼女たち〟は、愛娘が再び街へ出て行くときに持たせる贈り物が如く、文書や粘土板、石碑の欠片を差し出してくれた。
やがて差し出された品々の文字を解読し、描かれた図の分析をしてゆくにつれ、私はあることに気がついたのだ。この国で、文明の後退が人為的に引き起こされてきたことに。
――文明とは、無数の歯車が噛み合い動作する機械仕掛けの神である。それは全能の混沌が作り給うた〝存在の偉大なる連鎖〟と同じく、どれかひとつが脱落したとき、装置すべてが停止してしまう。一体過去にどれほどの神々が死を迎えたのかは、誰の知り及ぶところでもない。
さて、いったい歯車の脱落を防ぐためにはどうすればいいのか?
答えは簡単。人智を超越した歯車を作らなければ良いのである。
ヒトは超自然の力を以て創造物を管理することを成し得ない。
脱落しそうな歯車は手入れをしていくのが順当なやり方であるが、我々の思考力の複雑さを上回る不具合が起きたとき――すなわちこの世に解決不能な問題が生じたときに、装置の崩壊は止められないものとなる。そんなとき、我々ができることと言えば、常ならざる力を求めて祈りに賭けることくらいであり、その先に待ち受けるのは紛れもない破滅だ。
ある書曰く、〝より優れしものに我等が迫るならば、劣れるものは我等に迫る。〟当然ながら、劣れるものが我等に迫るならば、我等はそのとき、より優れしものに迫っていなければならないはずである。
ならば全能の半身たるユーフォリアの皇帝たちはどうしてきたのか?
これも答えは簡単。人智を超越しそうな技術の芽を、制御不能となる前に「手ずから」摘み取ってきたのである。
もちろん、文字通りの意味である。極めて質の高い東方鋼の製法を記した書が焼き払われ、またあるときは自律兵器の開発に勤しんでいた科学者が姿を消し、ときには一度味方に付けた部族を滅ぼすような戦もあった。
この国は無計画に発展を遂げてきたわけではない。いつだって文明を人の支配下に置き、より優れしものに我等が迫るとき、文明が初めて進歩することを許された。もちろん、内部崩壊に繋がる問題を解決するために科学の発展を急いできたし、周辺国家が並外れた水準の技術を手にしたならば、自壊のときを静かに待ち続けた訳だ。
帝国を導いてきた者達は、ときに既存の発展を犠牲にしてでも、加速度的な発展を防ぎながら文明のパノプティコンを築いたのである――聖跡から出てきたものは、そのほとんどが時代錯誤異物、あるいはそれに関する文書だった。
それが、失われた環の真実。
――ところで、現世に格別の思い入れも無い私だが、ひとつだけ疑問に思っている事実がある。
現代の帝国は、果たして文明の歯車の全てを認知できているのだろうか?
あるいは、私の知らないところで今日も人智を越えた何かがこの世から姿を消し続けているのだろうか?
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ひとつなるものが残り、多くは移ろい過ぎ去りて、
天の光は永遠に輝き、地の影は飛び立つ。
出典:著者不明「シュレイバー文書」(ディアナ・A・シュレイバーによる発見・解読, 2091)