top of page
Setting on fire.png

Setting on fire

Composer : Protoz

―帝国暦21XX/OV/VO 居住区5-3にて

―ここで速報です。
先ほど、外宇宙ステーション「SIDoQA」にて、大規模な火災が発生しました。
爆発的に燃え広がっているとの情報も入っています。
落ち着いて避難を開始してください。
火の発生元などの詳細な情報が入り次第、お伝えします。

繰り返します。外宇宙ステーション「SIDoQA」にて大規模な火災が発生しました。
爆発的に燃え広がっているとの情報も入っています。
皆様落ち着いて避難を開始してください。
火の発生元などの詳細な情報が入り次第、お伝えします。

では次のニュースです―。

物資と未知の開拓を求め、私たちが故郷を離れ、宇宙へ飛び立ってからしばらくが経つ。
潤沢な物資があるかもしれない宇宙へ飛び立った人類は、やはりそれを自分だけのものとしようと争った。
宇宙軍の創設や、宇宙服の戦闘転用など、他国との宇宙開発競争の末、
諍いに倦んだ人々が願い、そして出来上がった平和の象徴。
それが「SIDoQA」だった。

当初はこのSIDoQAを多国間で平等に扱うことに首肯しない国家や、
独自の宇宙ステーションの建設に乗り出し、物資を独占しようとする動きもあったが、
国家連盟で平和利用宣言が採択されてからは、そうした動きは鳴りを潜めていた。

一般庶民たる私が知る限りでは、小悪党が利用しようとして検挙されるくらいのもので、
テレビのコメンテーターの意見を借りるなら、「地上よりも平和な場所」だ。

そんなSIDoQAでの火災のニュースが届けられたとき、私は出勤前にパンを口に放り込んでいた。

ふーん、そうか。
遠くの国での小火のような感覚で、私はいつものように仕事場へ向かった。

―えー、情報が入りました。
火の元はSIDoQAの貨物室の模様です。
鎮火へ向かっていると発表がありましたが、依然危険な状況です。
貨物室から遠くに離れてください。

繰り返しお伝えいたします。外宇宙ステーション「SIDoQA」の火災ですが、
火の元は貨物室と発表がありました。
鎮火傾向との発表はありましたが、以前危険な状況なため、貨物室から遠くに離れてください。

では次のニュースです―。

夕方ごろ、帰宅してからテレビをつけても、SIDoQAの火災のニュースがずっと流れていた。
長い時間鎮火できてないのは管理体制の甘さが原因、とか、
火の勢いがすごいから鎮火に時間がかかっている、とか、
貨物室からどうして火が出たのか、とか。
バラエティに富んだ切り口なのはいいが、全てのニュースで同じことをやっていると、うんざりしてくる。

どんなに重大な出来事でもそれが当人にとって関係のない出来事だったり、
興味を惹くような話題でもなかったりすれば、必然的に他人事になる。

まだ燃えてるのか。
遠くの国での大火事のような感覚で、私はテレビの電源を落とした。

―先日起きたSIDoQAの火災について、全宇統合検察は、貨物室の中で東国のキャビンが特に激しく燃えており、
放火と自然発火の両面で詳しく取り調べを行っています。
全宇統合検察発表によると、これまでに確認された犠牲者は21人、負傷者は数百人に上るとのことです―。

数日後、鎮火されたであろうSIDoQAの中で激しく燃えていた場所が西国のキャビンらしく、
ネットでは西国が利益を独占するために放火に走っただの、
西国の事を疎ましく思った人間がわざとらしくそこに放火しただの、
寝たばこで燃え広がっただの、侃々諤々、丁々発止といった様相だった。

当然真相が巷間に広まるにも時間はかかるし、たとえ「真実」が広まったとしても、
その裏には~などと邪推する人たちもたくさんいることだろうし、
しばらくはこの火は消えることはないだろうなぁと思った。

事実、全宇統合検察からの発表を待たずに各国政府は関与していないこと、
救援を惜しみなく行う準備があること、
そして、放火であればその犯人に対して厳しい非難を以て対応すること。

そんな会見が、判を押したように色んなチャンネルから流れてくる。
そうでないとその国が首謀したとみなされるから、そうするしかないのだろう。

時々「あの国が悪い!」とか、
「我が国を悪く言うそちらこそ怪しいものだ」とか、
子供の喧嘩かと思うようなものが混じっていたり、
「我々は某国が火を放ったという証拠をつかんでいる」と発言したりして物議をかもすことはあっても、
概ね「平和のために犯人を糾弾する」ことに関しては一致していた。

この発言の裏で、一体どんな腹の探り合いが行われているのだろう。
というか、誰を犯人ということにして、この火災で生まれた溜飲を下げさせるのだろう。

やはり私はどこに行ってもいつになっても人間は変わらないなと思いながら、
いつもと同じようにパンをかじるのだった。

bottom of page