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龍虎双び穿つ

Composer : JourneyCat

 これは俺の爺さんから聞いた話なんだがな。

 爺さんはその昔、いわゆるヤ—さんの下っ端だったことがあるらしいんだ。……え? ヤ—さんって何かって? そんなことは帰ってから自分で調べておいてくれ。カタギじゃない人のことだよ、覚えておいてくれ。

 んで、爺さんは恐ろしいほど強い人の部下だったらしい。なんていったっけな。そうそう、確かエイシンさんって人だった気がする。ちょっとまっててくれ、爺さんの書いたメモ取ってくるから。

 

 お待たせ。そうそう、金色夜叉虎のエイシンって呼ばれていたらしい。リンカオ県のあたりに本拠地があって、数百人の部下がいたらしいんだ。結構な数の部下がいるくせに、シノギなんかは悪事には手を染めずに、港湾の荷物を管理したり、古芝居の興行を手がけたり、後は用心棒なんてのもあったらしいが、とにかくそういうものでメシを食ってたらしい。

 ただ、そういう業界だから、ある種のテリトリーがあったらしくて、時々縄張り争いになったこともあったらしいんだ。なかでも、センナン県にいたラオとかいう人の組とはかなりの数やりあっていたんだとさ。このラオってのもなかなかの強者で、「隻眼の龍」だなんて呼ばれていたみたいだ。……そうそう、片目を誰かにやられていたんだろうな。それでもかなり強いってんだからすごいよな。

 

 どっちも相当な強さだったから、なかなかこの二人の決着はつかなかったらしいんだ。部下たちもいがみ合ってたけど、二人がタイマンで勝負するときばかりはどっちが勝つかで盛り上がっていて、爺さんも法律で禁止されてたけどそのときばかりはどっちが勝つかで賭けをして盛り上がったって楽しそうにしゃべっていたよ。

 で、まあそんなボス二人なんだけど、ある時ユースデイアの外から麻薬シンジケートがやってきてハバをきかせることがあったらしいんだ。もちろんどっちの組織もクスリなんて売らないし許してもないから、かなり怒ったらしいんだ。え?クスリなら体にいいだろって? まあ、それも後で調べといてくれ。少なくとも体にいいもんじゃあない。

 爺さんがボスから聞かされた話では、クスリなんてのは地域を、そこの人たちを破壊して回って未来を壊しちまう、あんなものに手を出す奴は外道以外の何物でもない!って見たことないくらい怒ったらしくて。そりゃそうだよな。仕事相手をクスリ漬けにしたって、なんの得にもならねえもん。

 

 さすがに頭にきてカチコミにいこうってなったんで、爺さんたち下っ端もエモノ担いで麻薬シンジケートのアジトに殴りこんだらしい。エイシンさんたちはどんどん出てくる向こうの構成員をちぎっては投げていたらしいんだが、そのうちに七尺はあろうかというほどデケえ男が出てきて、逆にこっちの構成員を片っ端からぶっ飛ばしていったらしい。

 エイシンさんもそいつにタイマンを挑んだんだが、相手の大男は北方出身のそのごっつい体でがっぷり四つ、エイシンさんを投げ飛ばしたらしい。エイシンさんも筋骨たくましい男だったんだけど相手が悪かったらしい、かなり劣勢になっていたんだ。

 

 そこへ、

 

「なんでえ、みっともない姿だな、エイシンの」

 

と、あのラオの組がわんさか下っ端引き連れてやってきたらしい。もちろんラオのほうも麻薬シンジケートの横暴さに腹を据えかねてのことだったんだろうな。似たもん同士だし、案外二人とも仲良くタイマンしてたのかもな。

 

 んで、そこから二人はいがみ合っていた仲なのをいったん忘れて、あの大男をぶっ飛ばすために共闘するのさ。エイシンさんが相手のパンチを受け止めると、ラオが強烈なケリをお見舞いしたし、ラオが相手と組み合ったなら、エイシンさんがその横から殴りこんだ。大男もたまらなかったみたいで、結局どっかからデカいナタを拾ってきてそれで二人に襲い掛かるんだが、二人ともこれをちゃあんといなしてとどめの一撃をお見舞いしてやったのさ。

 大男は壁まで吹っ飛んで気絶、相手の部下たちもこれには驚いたらしく、コイツらを囲んでツブせ!って指示したらしい。

 

 あんなにいがみ合っていたけど、二人は背中をお互いに預けて戦ったのさ。きっと心のどこかで実力を認め合っていたんだろうな。戦い続けて、そうして最後に麻薬シンジケートの親玉をぶっ飛ばして、憲兵に引き渡したところで二人の共闘は終わった。あとは、またいがみあって抗争を続ける日々に戻っていったのさ。

 

 

 ふう、まあ俺の爺さんの話はこんなところだ。よくわかったか?

 え、なんでわざわざこんな話したのかって? あっちみてみ、右のほう。あの髪が銀色の男。アイツさ、ラオの孫なんだよね。……そう、つまり俺が率いてる王虎組の、抗争相手の義竜組のボスよ。わかった? ついでに言うと、俺もそのエイシンの孫なわけ。

 悪かったな、わかりづらい話し方でよ。要するに、今からあいつとタイマン張んなきゃいけねえんだよな。とりあえず危ねえから、カタギの人は怪我しねえうちに帰るこった。

 

 さァて、そんじゃあまあ、闘りますかッ! 三代目エイシン、参るッ!


 

~ユースデイア国リンカオ県の港湾施設にて~

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