Meteor Swarm
Composer : kuroburger
大変だ! 100万年に一度の隕石が降ってくる!
などと、テレビでは上を下への大騒ぎだ。テレビは終日同じことを繰り返して報じてる。
明日死ぬかもしれないからね。
でも僕はそんな心配はみじんもしていない。なぜって? それは…。
「あーポテチ美味しいね、君もどう?」
……僕の後ろで今テレビを見ながらくつろいでいるのがその『隕石』の一部らしいからだ。
―――
――
―
ある日の夜だった。
夜空をぼおっと眺めるのが好きだった僕は、何かがキラッと輝いたのを見た。
いつもの流れ星か、と思ったけど、どこか違う。
それはまるで、夜空を踊るバレリーナ。
それはまるで、一条の光が、一面の黒を染め上げるような。
そんな、流れ星だった。
一瞬にして、僕はその流れ星に心を奪われた。
しばらく感慨にふけってから、今まで見た中で一番キレイな流れ星だったなぁと独り言ち、その日は寝た。
翌日テレビを点けると、隕石騒ぎでてんやわんやで、学校でもその話題が尽きなかった。
どこに落ちるか、とか、どれくらいの大きさだ、とか。
そして、家に帰ったら、僕の部屋にすごい奇抜な格好をした「女の子」がいた。
いや知り合いかと思ったけど知り合いにこんな子いたっけと思ったし、誰も入れないはずだし、などと色々考えてて固まった僕に、
「うん?あぁ、お邪魔してるよ?」
さも当たり前のように、友達のように、話しかけてきた。
しかもポテチを食べながら。
……不審者だ。僕はイヤに冷静だった。
「いや~あんなこと言われちゃったらって思っていてもたってもいられなくてさ。来ちゃった。
でもここだーれもいないからどうしようかなーって」
うん、通報しようとスマホを手に取った。
「ストップストップ! 怪しいものじゃないから! まずはその機械しまって? ね?」
「いや突然知らない女の子がいてしかもわが物顔でくつろいでたらこうするでしょ」
「知らない人かどうかは君のお母さんに聞いてみたら? ボクは君のお母さんにドア開けてもらったんだし。
それにしてもこの薄いヤツ、美味しいねぇ」
ここで僕はバタンと扉を閉めた。
現実からも逃げたかった。
でもその時逃げる先はやっぱり自分の部屋なので、「不審者」と向き合うしかないことは明白だった。
――
僕は階段を駆け下り、1階でテレビを見ている母さんに詰め寄った。
「母さん僕の部屋に奇抜な格好の不審者入れなかった?」
「あんたの部屋? シルトちゃんしか来てないけど?」
「シルトちゃん!?」
母さんの口から全然聞いたこともない名前が語られる。
「なんでそんな意外そうな顔するの」
「なんでってそんな名前の知り合いいないでしょ」
「あんた『小さい頃からクラスも一緒で家も近所だった』じゃない!そんな言い方かわいそうでしょ!」
「ええ……?」
これもまったく知らない、聞いたこともない情報だった。
「ったく、もしおんなじことシルトちゃんに言ってたんなら承知しないよ。
ほら! シルトちゃんにお茶持ってきなさい」
湯気が出そうな母さんはそう言いながら冷たいお茶を押し付けてきた。
それに押される形で僕は自分の部屋に戻ると、
「ね? 『知らない人』じゃなかったでしょ? ボク」
彼女はニヤニヤしながら僕を待っていた。
――
「ボクはね。アレだよ」
指さす先には夜空に浮かぶ点。
浮かぶ月よりは小さいが他の点より大きい。
そして、みんなを恐怖させているモノ。
まさしく、『隕石』がそこにあった。
「まあ正確にはアレから色々あって分離したんだけどね。
っていきなし言っても信じてくれないだろうから、簡単に言っちゃえば君以外の認識をズラしてみたんだよ」
「シルトちゃん」は指をくるくると回しながら僕にさっきの種明かしを始めた。
「んー、正確にはここら辺一帯の君以外の認識をズラして、君だけそのままにして戻した、ってのが正しいか。
他の人たちにはボクは『君の幼馴染のシルトちゃん』に見えてるはずだよ」
どうやってここにとか、何故ここにとか、隕石から分離ってなんだ、とか色々聞きたいことはある。
でも、一つ確実に聞いておかねばならないことがある。
「……どうしてそんなことを?」
「君を信じさせるためだけど?」
「そこじゃなくて、そもそもなんでそんなことをしようとしたのかって聞いてるんだよ!」
「うん? ああ、そっか、そこを話してなかったっけ。ボクがここに来た理由はね、君だよ」
そう言って「シルトちゃん」はにやにやしながら、僕を指さした。
「いやあ気まぐれにこっちに来てみたらあんなに情熱的に想われるなんてって思っちゃってさ。
ボク昨日が初めてなんだよ。飛んでる所をあんなに褒められて、熱烈に口説かれたのなんて。
それが嬉しくなっちゃって。胸がきゅーって締め付けられて。気が付いたらここに来てたの。
んで流石に急に来て隕石ですなんて言ったら、君どころか色んな人にヘンな目で見られそうだから、
ちょっと認識をズラしてみたの」
「うんわかった信じる」
「いや自分で言っといてなんだけど飲み込みが早いね君。
相当キテレツなこと言ってるつもりだけど」
「いやどんな経緯があろうと可愛い女の子が僕に興味を持ってくれてる時点でひとまず信じるよ」
「……ふーん…そっか」
そう言って「シルトちゃん」は顔を窓辺へ向けた。
――
「バレリーナ、ねぇ……」
何故か急に物分かりが良くなった彼と、色々今後の事を話し合った。
流石に「寝る場所がないから君の部屋で寝泊まりさせて」って言った時は顔を真っ赤にしてお義母さんに頼み込んでたけど。
かわいかったなぁ。
あと『隕石が落ちるのか』ってあんなに必死に聞かれるとは。
とりあえずないないって言っといたけどそんなに大事になってたんだね。反省。
でも、さっきつい口から出た言葉は、私にとっては最上の言葉。
『あそこ』に居た時には、誰にも言われなかった、初めての言葉。
だから、とっても嬉しい。
「ボクと同じように、君もボクに夢中にさせてやるからね」
そう思って、僕はお布団を被った。
元隕石でも、眠い時は眠いので。
―帝国暦20XX/XX/XX,アカウント名:Sgea,電子端末(S:sfojbh_8641531_56+h4sr35h1rwshe)投稿分より引用