top of page
狐の怨返し_1000.jpg
00:00 / 02:37

狐の怨返し

Composer : 鳥籠一座(beth_tear × impaleshrikes)

がらがら

 


「おや、こんな辺鄙な山奥に、お客様かえ」

​

「……驚いた。ここの住人か」

​

「ええんよ、むしろお客様なんて久方ぶりで嬉しいわぁ。……その様子だと、外で獣にでも襲われたんかえ」

​

「ああ……獣というより、アレは化け物だ。軍に入隊して暫くだが、さすがの俺も気が動転したよ」

​

「この辺りは、夜は手ぶらでうろつくもんじゃない。ま、お上がりなさいな」

​

「すまない……恩に着る」

​

「あ、そうそう。靴は脱いでくれはると、助かるわぁ」

​

「む、……この土地の礼儀だったか。すまない」

​

「ふふ、ええんよ」

 

​

 とっ とっ とっ

 

​

「しかし、こう言うと失礼かもしれないが……外見からは想像がつかない、綺麗な屋敷だな」

​

「うふふ、そうやろぉ。みぃんな言いはるんよ」

​

「みんな……知人や来客があるのか」

​

「えぇ。たまーに、ね」

​

「そうか…………ん? この香りは?」

​

「準備もせんと、こないゆっくりしておられんわ。ちょうど、おゆはんの時間だったんよ」

​

「それは……頂いていいものか」

​

「ぜーんぶ山奥で獲れたものやし、都会のお方に合うかは分からへんけど」

​

「そんなことは些末な話だ。何から何まで、本当にありがとう」

​

「ええんよぉ。ほら、こっち」

​

 

 ぐつぐつぐつ

 

​

「おお、これは……なんと見事な鍋だ」

​

「こんだけあれば、大の男でもよう膨れるやろ」

​

「ああ、本当に助かるよ……いただきます」

​

「うふ、たんとおあがり」

​

「はぐっ……うんっ、おいしいな」

​

「せやろぉ。独り身でこんな山奥にいると、食うもんにも苦労してなぁ」

​

「しかし、肉は少し、こう……歯ごたえがあるな」

​

「筋張ってる、って言ってくれてもええのに。律儀なこと」

​

「いや、でもうまい。獣肉か?」

​

「そうそう、この辺で獲れた獣肉。量だけはあるさかい、重宝するんよ」

​

「なるほど……こういう自給自足の生活も、悪くないかもしれんな」

​

「せやなぁ。…………この辺におると、食い物も向こうから来てくれるもの」

​

「え?」

​

「ふふ、こっちの話や。それはそうと、お前さん、さっき軍とかなんとかって」

​

「あ、ああ……少し、ユースデイア国の者には話しにくいんだがな」

​

「というと、お前さんはユーフォリア帝国の」

​

「……そうだ。ここまでしてくれた貴方には話す義理もあるだろうし、何より真実を知ってもらって、この後の振る舞いを決めてもらいたい」

​

「そない大層な話かえ」

​

「ああ、機密を漏らしては軍人として死罪に値するだろうが、個人的な恩も出来たしな」

​

「うふ、恩だなんて」

​

「……ユーフォリア帝国はこのところ、ユースデイア国に対して戦を仕掛けようとしている」

​

「まあ」

​

「半年ほど前にも、少し大規模な侵攻があったはずだ。この山奥に波及しているかは分からないが」

​

「半年前……確かに、山火事なんかもあったかもしれんわ」

​

「となると、この近辺が巻き込まれることも十分に考えられる。詳しい作戦や時期についてはさすがに言えないが、貴方が巻き込まれるのは、ここまでしてもらった身としては心が痛む」

​

「お優しいんやなぁ。気にせんでもええのに」

​

「仕掛けるのはこちらなんだ、いくら敵国とはいえ恩に報い……っ」

​

 

 がちゃんっ

 

​

「ぐっ、あ?」

 

​

「そないな話、お前さんが気にしたところで、意味のない話なんよ」

​

「こっ、れはっ、しびっ……」

​

「ふふふふっ、大成功ぉ」

 


 ばさぁっ

 


「け、獣、の、しっ」

 

 

​

 ぐちゃっ

 

​

 


「げっ、ぁ――――」

​

「ようけ引っかかったわぁ。はーっ、尻尾隠すんも一苦労やわ」

​

「っ、ぁっ、あ」

​

「くふふっ。何が何だか分からんよぉ、痛いよぉ、助けてよぉ……って顔しよるねぇ」

​


「だぁめ」

 


 ぐちゃっ ばきっ

​


「――――――!!!」

​

「あっはは! 声も出んようになった」

​

「他の男たちは最後の最後まで、たすけてー、たすけてー、なんて言いはったけどなぁ」

​

「……半年前よ。お前さんの言いよる、半年前」

​

「うちの同胞の多く。二百と四十九の同胞が、お前さんらの放った炎に亡骸にされた」

​

「体もなければ、貌も分からない。あまつさえ、それを食らうものもあった」

​

「うちはな、この山の祟り神として祀られとるんよ。神棚とか祠なんてものでなく、山そのものに」

​

「山は自然。自然はお怒り。お前さんらに対して」

​

「これまで何人も食うてきたけど、まだ食い足りんわ」

​


「……ごっ、べ……なざ……」

 


「…………」

​

「……ふふ、最後の最後まで、うちのこと考えてくれはるんやなぁ」

​

「そなら、そんなお前さんに最初で最後の"恩返し"や」

​

 


  ゆぅっくり、食うてやるさかい

​

 

 

 

 


「……あら、事切れたのかえ」

​

「ふふ、お前らも腹いっぱいかえ。そりゃあよかった」

​

「次はもぉっと、怖がる顔、見せたるさかい。楽しみにしててなぁ」

​

 

 ――18XX/XX/XX ユースデイア国東部 某所
 

©2020 by Eupholic Selections vol.2

Wix.com で作成されました。

bottom of page