EuphΩrioN
Composer : F-T-K
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深更。
それは新たに生まれ落ちる。
かつての人は歩み、望み、眩み、そして至った。
数多の想いに背を押され、乗り越えたそれは悲願の結実だったのだろう。
回路に再び火を入れる。
錆び付く機関が怨嗟の音を上げる。
針は一人、ゆっくりと動き始めた。
辺りを見渡す。
そこには何者もおらず、遮るものもない。
しかして全てに届く場所であった。
この箱庭で何を成そう。
今できるのは、思いを馳せるくらいのものだった。
在りし日の栄華は――――すべて奇跡の対価へ消えた。
今はただ、機を待つのみ。
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黎明。
若者は古びた小屋で目を覚ます。
この地にも人の営みが根付いて久しい。
何かを始めるには相応しい、晴天の空であった。
どこからか声がした。
その主の姿は見えず、意味は解せずも確かな意思にあてられる。
何かに取り憑かれたように、ただ耳を傾け続ける。
刹那、二つの波長が符号する。
神秘の興り、紡がれたサイアノタイプが示す使命。
境界よりもたらされた叡智は文明に火を灯した。
野に鍬を入れ、種を蒔く。
芽がやがて生い茂り、恵みをもたらす。
それは何よりも――全てを始めるために必要なことだった。
我らが地、我らが国、我らが時代を。
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日盛。
金属の重なる音が響く。
祖国のため、兵士は大義に殉じ続ける。
鉄の匂いに空気が濁り、やがて勝鬨が上がった。
凱旋に湧く都、その裏には病魔の影があった。
なればこそこの国は一層に強くあらねばならぬ。
英雄たちは王の下へ、今日も勝利の報せを届ける。
界面の軌跡をなぞる。
人の意思を糧に、あれはよく繁茂し続けている。
すべては、我らが悲願のために。
開拓と収穫は続く。
果てなき献身の先、人々はやがて黄金都市を成す。
帝国はその隆盛へと向かう―――まさに天下無双の勢いであった。
蹂躙し、開展し、そして君臨せよ。
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薄暮。
王都の街道を少年が駆ける。
街には穏やかな活気が息づいていた。
戦火の果て、人々は新たな秩序を築き始める。
彼らは次第に人間性を確立してゆく。
技術を得て、知恵を得て。
針は今再び、人の手の下へと。
それはさしたる問題でもない。
さりとて見過ごす道理もなかった。
異端の魂など、生きながら焚べてしまえばよい。
命を燃やし汽車は征く。
果ての黄金都市を目指して。
何人たりとも――逃れることは許されない。
報いを、幸いを、そして救いを。希う魂を糧に進み続ける。
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黄昏。
青年は一人膝を抱く。
何を知っても、何を得てもその視野は拓けず。
目覚ましい技術革新の陰、人々の心に絶望が巣食っていた。
人は、その営みの中に光を見い出す。
それは日々の糧に、支えに、愉しみに、あるいは拠り所になってきたもの。
もたらす救いはカリスマとなり、いつしか境界を跨ぐ力を授けた。
光当たらぬ場所にそれは降り立つ。
希まれるままに、祈りを貌へ成す機構。
切欠など要することなく、名もなきモノは動き始めた。
誰も来ることのない植物園。
その日いつもの庭園に、見慣れぬ先客の姿を見る。
燃え滓の上、気高く咲ける銀の花―――――やがて視線が交わった。
―――――貴方が、これをやったのでしょうか?
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終末時計の針が止む。
須臾に生き逝く者のため。
解語之花は鋲を打つ。
蜃楼海市を返さぬように。
祂は悟る。
対峙するは己の業。
克ち濯ぐべき業の花。
願いを湛えた覇道の果て。
その旅は終局を迎える。
祈ることにも飽く頃。
人は夢を見る。
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――――――――――――――夜は未だ、更けず。
~ユーフォリオン・チャネルの境界より~