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Cybernaut

Composer : yokoyamongoose feat.巡音ルカ

 おにいちゃんは、すっかり電子の網に取り込まれてしまったみたいだった。

 

 正直、だらしなくて、世間にはぜんぜん興味がなくって、いわゆるただのおバカ。

 

 いつも二次元に入りたがって、スライムか蜘蛛か最強の魔王に生まれ変わりたいなんて、よく分からない転生……? の知識だかを語ってたんだっけ?

 

 でも、そんなおにいちゃんはまだ、ヘッドギアを頭に装着したまま。まだこの世界に帰ってきてないのだ。

 

 働いてなくて、ずっと部屋に閉じこもっているような、社会のお荷物さん。

 

 でもその人は、わたしのおにいちゃんだ。世間様がなんと言おうと、わたしにとっては大切な家族だもん。

 

 わたしは、おにいちゃんを助けに行くことにした。

 

 簡単なことだ。わたしもヘッドギアを装着して、VR空間に入っちゃえば良いんだから。

 

 おにいちゃんを迎えにいくため、わたしもおにいちゃんの世界に入ることにしたんだ。

 

 ――結論から述べるなら。

 

 おにいちゃんは、すぐ見つかった。

 

 電子の世界。わたしには、そうとしか見えなかった。

 

 でも今の技術なら、おにいちゃんには中世の都市国家を模した異世界に見えるらしい。

 

 どういう技術だっけ、VRMMOとか、フルダイブとか、そういうの。なんのことだかわかんないや。

 

 まあ少なくともおにいちゃんには、この空間が異世界に見えるみたいで。

 

 おにいちゃんはすぐそこで、おっきな大剣を握っていて。

 

 そこでどうしてたかっていうと……。

 

「やれやれ、オマエら、俺がいなきゃなんもできねえんだな」

 

 くだらないヒーローごっこに興じていましたとさ。

 

 お兄ちゃんの両側には、女の子が二人。

 

 すんごいド派手な色の髪をしてさ、

 

 大事なとこしか隠れてない大胆な服を着てさ、

 

 おにいちゃんの腕を両側からぎゅっと抱きしめていたんだ。

 うーん。

 手遅れだったね。

 じゃ!

~帝国暦2064年 バカ兄貴の為に電脳世界にフルダイブしてしまった愚妹から見た景色~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なーんて、終わらせることはできるけどさぁ。

 

 ……やっぱりむかつくじゃん?

 

 今のわたしはですね、あのバカにーにに、何かしらの仕返しをしなきゃと考えている訳ですよ。

 

 ちなみにこれはトリビアルな泉だけど、バカにーにと「主題と変奏」とは全く関係ないからね、おにいちゃん。

 

 って、なんでこんなこと考えてるんだろわたし。

 

 ま、教養のないバカにーには、今のギャグも分かんないんだろうなあ。

 

 さあ、そろそろ、かんわきゅうだい。おにいちゃんの様子を探ってみようか。

 

 取り敢えず、おにいちゃんのセリフを聞き取ってみよう。

 

 

 

 魔法、チート、レベル、カンスト、属性、魔王、召喚獣、

 学園、体育祭、部活、スクールカースト、教師、

 サキュバス、ダークエルフ、ラミア、おっぱい……おっぱい!?

 

 

 

 うーん、これってさ、世界観から何もかもが壊れてるよね……。

 

 おにいちゃん……。せめて、ファンタジーの世界なのか、現実の世界なのか、バトルしたいのか、えっちなラブコメがしたいのか、ちゃんと決めようよ……。

 

 大剣鞘から抜いたまま、両側に女の子を侍らせて……危ないでしょ。

 

 何をそんなにウハウハしてんだか。

 

 言っておくけど、ハーレムの主人公はウハウハなんてしてないんだよ。

 大抵はさ、女の子たちの愛情に気付かないド天然なんだよ。

 

 ……いや、それでも困るんだけど。

 

 女の子の愛に気付きながらも、愛を貪るだけ貪って関係を進めようともしないお兄ちゃんは……。

 ……それじゃ、ただの浮気者だ。

 

 そんなの、主人公でもなんでもないよ!! 最低の女たらし!! 赤ちゃん!!

 

 なんだか、かわいそうに思えてきちゃった。このVR空間がこんな使われ方をしているなんて……。

 

 どれだけ素晴らしいオタクコンテンツの前でも、おにいちゃんは表面的な楽しさしか享受できないんだね。

 

 世界の抱える種族間の問題だとか、すぐ横にいる女の子の心の機微とか、そんなのは一切関係ないんだ。

 

 自分さえよければ、後はどうだっていいんだね。

 

 でも、聞いて、おにいちゃん。

 

 わたしはね、おにいちゃんのそういう楽しみ方を否定するつもりはないんだよ。

 

 どういう使われ方をしようとも、わたしはおにいちゃんが幸せなら、それで良いのです。

 

 という訳でわたしは、こんな世界をもっとおにいちゃんに遊んでほしいと思ったのです。

 

 ねえ、おにいちゃん。おにいちゃんがもっと脳死で楽しめるようなゲームを、わたしが開発してあげるからね。

 

 それは、愚妹のわたしの、ささやかな夢ができた瞬間なのでした。

 

 めでたし、めでたし。

 

 あ、そういや、ママからの伝言忘れてたんだった。

 

 わたしは全力で叫ぶ。

 

 

 

「おにいちゃーん、ごーはーんーできたよーー。そろそろ部屋から出なさーい」

 

 

 

~帝国暦2064年 「晩ご飯に出てこない兄を呼び出す妹の夢」という名で公開されてしまった、律儀な妹の夢作文~

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