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Composer : A∞F0N
正史ってあるだろう? 端的に言うと俺はそれなワケだ。
まあ、かなりザックリとした説明だから全然違うって言ったら違うんだけどな。
要するに俺が創った未来、過去、現在。その全てが正しきお導きって事なんだよ。
正しいってどこから見た正しいかなんてそういう話じゃなくて。
そもそも正しいとかそういう言葉で話をするつもりもないんだけれど、これもさっきと同じで便宜上ってやつで。
人類は人類の基準で良い事や悪い事を判断するし、信じて生きているだろ?
まあそれを悪いとは勿論言わないんだが、結局主観的な正しいという感覚でしかないというか。
人類程度の歴史で、生まれた時に用意されている過去の土台を盲信するのは気が早いんじゃないか?
例えば、カミサマを信じる人。
彼らは信仰を続けていれば何らかの加護なりがあるはずだと期待するし、それが得られなければ自身の信仰心が足 りないと反省するかもしれない。
過去から今までそう言った教えだとか神話だとか、確かなものであるような顔をしてそこにあるからな。
でもそれってどうなのかなって思うぜ。
後か先に人類の在る前提の神話は割とあるが、本当にそんな矮小な存在を気にかけてた事あるんかねぇ、カミサマって。
まあ俺はカミサマじゃないし? 知った事じゃないからあんま言うと怒られちゃいそうだけどさ。
でも俺なら絶対気にしないね。
君達だってそうだろ?
例えば地を這う蟻一匹が「頼む。砂糖を分けてくれ、腹が減って死んでしまう」なんて君に祈ってても、まず視界 に入ってすらいないんだから。
だからもしカミサマが本当に君達を見ているとするなら、それは見守っているというよりは観察しているって言う方が正しいんじゃないかと思うぜ。
世界というケージの中に閉じ込めて、観察する。
本来ある自由、それをケージの中の存在は知らない為に、幸せに不自由に囚われている。
そしていつか困ったことが起きて、カミサマに祈る。
そんな時に気まぐれか何かは分からないが、砂糖一粒落としてくれる存在は、イイヤツに見えるだろ?
砂糖を与える時に、人類が口を開けて寄ってくるのを見て奴らは「カワイイ」って言うんだ、きっと、な。
話が逸れたな。
まあ、言いたかった事は俺が関係する事は全て良いも悪いもない、って事さ。
……あまり納得がいっていないって顔だな。まあ、無理もないか。
俺が君の立場だったら同じように感じるだろう、そう思うからな。
信じるかどうかは勝手。ただ信じようが信じまいが、この言葉は確かに君に届いているはずだ。
どうだ?そろそろモヤが掛かっていたような感覚も失せて、少しはハッキリしてきたんじゃないか?
……分かるか? そうだ。ここは君の夢の中だぜ。
ホッとしたか? 何でって表情に出てるからさ。でも、どうして?
こんな訳の分からない奴が居ないと分かったから? それともこれは夢であって現実ではないから?
それはどうだろうな?
さっきのカミサマの話もそうだが、見えてるもの、知っているものが本当に正しいかなんて、分からないさ。
夢が完全な空想で、100%現実に影響がない、存在しないなんて信じられているのはケージの中だけ、かもしれないんだぜ?
何をふざけた事を、なんて。信じて貰えてなけりゃ話は始まらないが、俺は嘘はつかない。なんたって正史だからな……おい、ちょっとは笑うところだぞ。
まあ、ある意味カミサマよりカミサマらしい事を、まさに今君に話していると言っても過言じゃない。
カミサマは世界を疑えなんて、自分に不都合なこと言わないだろうからな。正しく導くという意味ではよっぽど、だろ?
じゃあお前は何者なんだって顔だが。それが説明出来たら初めから正史、なんて誤解まみれの言葉使ってねぇからなぁ。
これを言っちゃアレだが、君たちの言葉と認識で表せたら苦労しないんだわ……試してみるか?
(不可思議な音が断続的に暫く聞こえる)
……な? だから言葉で伝えられるのはニュアンスだけだ。後は今、目の前にいる俺を見て君なりに考えてくれよ。
話が逸れてばっかだ、もうすぐ時間切れになるってのによ。
あぁ、そうだ。夢がどういうものであれ、基本的にはいつかは覚める。
俺が君に語りかけられるのも、もう少しで終わりってワケだ。
さっきは言わなかったが、宗教ってのはカミサマが実在するかどうかとかそういう事より、その生き方をする事が実際にその人の幸福に繋がるかどうかという面がある。
そういったルーティンで生きる事が健康に繋がるとか、考え方を有名な宗教に依存する事で安心を得るだとか、今の不安を幸せな未来への投資という感覚で和らげるだとかね。
君は今、幸せか?
いやいや、宗教の勧誘なんかじゃないぜ。
勿論、カミサマの夢でもない。言っただろ、俺はカミサマの事なんて知らねぇってよ。
夢に出てくる俺みたいな存在は、顕現するカミサマみたいな雰囲気があったか?
そうでもないって?
……
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記者ジェスティン XXXX年X月XX日 8:42 [E]
オカルティックな小話を纏める雑誌「フォリオン」最新号に掲載されている、近頃広い地域で実際に起こっている現象。
それはその現象に遭遇した人間(感染者)が「話と風貌が奇妙な男の夢を見た」と言い、その夢を見た日以降、僅かに彼らの行動原理が変化しているというものだ。
感染者は夢を見た日から、近しい人間にその内容を話したがるようになる。
一定の人間がその内容を一部でも認識すると、感染者本人はその夢の事を記憶から無くす。
だが彼らはその夢で見た男から何らかの影響を確実に受けており、大概の場合は夢の内容に沿った形で自身の幸福の追求という名目で、以前であればする事の無かった行動をとるようになる。
それらの行動変化の程度や内容に統一性がなく、仮に何らかの形で人為的に洗脳に近いこの現象が行われていたとしても、一貫性がなく最終的な目的があるようには思えないものであった。
ここまでの内容であれば、ちょっと変わった噂。いや、これは事実なので噂では済まないのだが多くの人間は自分には関係ない事だと聞き流す事だろう。
だがこの現象にはまだ大きな特徴があった。
それは感染者から夢の話を聞かされ認識した人間は、数日の内に同じように男の夢を見るのだ。
そして彼らもまた感染者となり、同じように周囲の人間に夢の話をする。
一定の感染拡大を終えると、自身の感染経路となった感染者から聞いた夢と一緒に自身の夢も忘れる。
実はこうした感染拡大が徐々に始まっているのだ。
感染者自身が忘れてしまう特徴が故に、この感染の拡大を止めるのは非常に難しい。
こうも確認が取れない特徴に「いつものガセネタだろう」という世間の声が多かった。
実は、この不可思議な現象の記事は私が書いたものだ。
僅かな手掛かりを頼りに夢を忘れる前の感染者の連鎖に接触する事が出来たのだ。
そして彼らの症状を観察した結果を余すことなく書き留めた内容なので確かなものだと保証する。
であるから当然として私も感染者である。
昨日、男の夢を見た。
例に漏れずすぐにでも知人に話したい欲求に駆られたが、踏みとどまった。
彼の夢は私たちを正しく導く。束縛から解放してくれる。自由な考えをもたらしてくれる。
この幸せへと至る素晴らしい感覚を皆にも知って欲しい。そう思い、今この投稿をしている。
#日記 #フォリオン #夢 #幸福