万緑蒼中紅一閃
Composer : 刀匠 瑠世紅蒼
青く光る空の下、黒色の影が二つ。
向かい立つ影は刃に紅を滴らせ、下卑た笑いを浮かべるのであります。
お前も我が刃の錆となるか。
彼奴と同じくこの地に屠ってやろうか。
斯くの如き悪口雑言に耳を覆えども、耳に障るは条理でありまして、
ただ、はぁ、と嘆息するのみでありました。
それからややあって一太刀が相手方から、
返す刀で反撃を試み、そこからは入り乱れての紅花の散らしあい、
果たして叢は彼岸花へと変わったのであります。
半刻も過ぎた頃にはあれほどの大言を吐いたごろつきは、
気息奄々といった調子でありまして、打ち据えられて堪忍したか、
引き渡す頃にはすっかりおとなしくなってしまったようでありました。
ところでこのごろつきを打ち破ったお方はどこへやら。
おっと、私を詰問しても知らないものは知らないとしか言えませぬ。
私はただ、見たまま聞いたままを語るのみ。
行く末はただ、彼方がのみ知るのであります。
しかし、貴方も物好きな人でありますなぁ。
あの偉丈夫をそこまで目の色を変えて探すなどと。
その背に隠した鈍色で刺し殺す気でありましょうか。
はぁ。何故と言われれば、私にも少しばかり心得がある、としか。
こんな歩き回る商売をしていると、危険や殺気の類には鼻が利くようになってしまったのであります。
わかりやすく灰が上がっておれば、そこが火元であることは容易に判別がつくのは自明のこと。
そこを避けるようにすることが、私の処世術でありますから。
しかし、わざとらしく貴方の探し人を持ちあげればまた爆ぜるように燃え上がる緋色は、
例え童であっても気付かれることでありましょう。貴方の火はひどく黒く禍々しい。
貴方の癖であるならば、一度頭を冷やすとよろしい。
そこな茶屋で、一服いかがでありますか。
……いきなり切りかかるとは、穏やかではありませんな。
それにその刀の使い方もなっちゃいない。
それじゃあ刀も泣いてしまう。人を切るための刀ではないのでありますが。
さて、貴方が冷静に会話をする気も真面目に刀を扱う気もないのなら、
貴方も私もこれ以上無駄な時間を過ごすべきではないのであります。
疾く、去ね。
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――
弁士に悪名高い浪人が切りかかり、浪人が倒れた、というのはこの近辺では有名な話でな。
目撃者の話では、弁士が切られる、と思ったその後に、
ぶん、と高い音が鳴ったかと思えば、浪人がゆらーり、ゆらり。
さながら何かに切られたように、土に突っ伏したんだと。
そういや、なんか燃えてるような音がしたからって家に駆けこんだっていう奴もいたらしいけども、
その日に火事だという報せは一つたりともなかったのだとか。
小火騒ぎも聞かないし、一体全体あの音は何だったんだか。
その弁士もどっか行っちまったし、浪人は浪人で人が変わっちまったみたいに評判がよくなった。
あの弁士は何を切ったんだろうな。
―日時不明、東国の団子屋にて