Euphoria For Ever
Composer : Halv
どこまでも突き抜けるような青空。
その下で草原に寝転がっている彼女を見つけた。
「まーたこんな所で寝てるのか」
「ん?ああ、キミか」
まさしく「寝ぼけた」ような顔で言う。
おおよそここに僕が探しに来るのも計算づくなんだろう。
「キミか、じゃないよ、
探しにくる方の身にもなってほしいんだが」
「まぁまぁ、君も寝転がってここの景色を覗いてごらんよ。
そんなに肩ひじ張ってたら疲れるだろう?」
いつものように彼女は何か企んだような笑いを零す。
……諦めて、僕は彼女に振り回されることにした。
気落ちしたように彼女と同じ格好をとると、
確かに彼女の言う通り、ここから見る風景はまさしく絶景であり、
吹き抜ける風が時々草花のいい匂いを運んでくる。
リラックスするには絶好のロケーションと言える。
「ここは私のお気に入りでね」
横にいる彼女が滔々と話し始める。
「この晴れ渡る空はどこまでも続いているんだろうな、なんて考えると、
今の自分の考え事とかそんなことがちょっと気が楽になるんだ」
「お前でもそんな風に考えることがあるんだな」
「ないわけがないだろう?
私だってちょっとばかりセンチな気分になることもあるさ。
キミには私がそんな気分にすらならないような冷徹な人間に見えていたのかい?」
「……そうは言ってないだろうに」
彼女は笑って僕はため息を一つ。
それがいつもの会話だ。
「しかしまぁ、見事に今日は快晴だな」
「キミは天気予報という便利なツールを知らないのかな?
それとも会社員が喋るような普遍的話題として天気のことをチョイスしたのかな?
だとすればそれはイマイチだと思うよ。
私とキミの間柄ってそんな普遍的話題が必要なものじゃないだろ?」
「……」
こういう言葉でも、彼女は僕を揺さぶってくる。
揺さぶられ過ぎて脳の容量が減っていやしないか、少し心配になる。
「空の青に比べてキミの顔の赤は映えるねえ」
「……からかいたいだけなら僕はもう行くから」
「まぁまぁ、お茶請けもあるからここで休んでいきなよ」
「用意がえらく良いことで」
「それは、まぁ、どうせ私を探しにキミが来るだろうし。
それなら二人っきりで思い出を共有したいじゃないか」
「……お前、顔ちょっと赤いぞ」
「そりゃそうだよ。キミがいるんだもの……っと」
彼女はおもむろに体を起こした。
「なあ」
「うん?」
「この空ってどこまで続いてるんだろうな」
「それは理論的な話かい?」
「この流れでそんな話をすると思うか?」
「それもそうだね、でも……」
そう言って彼女は急に近寄ってきた。
「私は、『ふぉー・えばー』だと思うよ」
「そうか、僕もそう思うよ」
「……そうかい」
彼女がどちらの意味で言ったのかは定かじゃないが、
なかなか見せない彼女の恬淡な笑みの前には塵のようなものだった。
風はヒュームとうなった。
爽やかな風はリラックス作用を引き起こし、
うららかな日光は眠気を誘発する。
「ふわぁ……やっぱり眠いから寝る」
彼女はその眠気に易々と屈した。
必然的に僕に体を預けるような形になる。
「おい、せめて僕に一言かけてから……」
「いいじゃないか、私とキミの想いが再確認できた記念日なのだから」
そう言って、楽し気に寝息を立ててしまった。
当然無理やり振り落とすわけにもいかないし、
かといってずっとこのままなのはツラいものがある。
彼女が寝入ってから何度目かの風が一緒に眠ることを提案した。
よし、僕も眠ろう。
次に起きる時も、風の爽やかな、この青空であることを祈って。
―ここではないどこかで世界を見守る誰かたちの暮らしの一ページより。